梨泰院事故の後に 韓国人が直面する怒り、悲しみ、トラウマ

ソウル・梨泰院駅を訪れ、事故の犠牲者を追悼する人(Getty Images)

「助けてください!」「押すなってば!!」「立ち止まらないで! みんなこっちへ移動してください」「傍観しているんじゃない、人が死んでいるんです!」

韓国ソウルの繁華街 梨泰院(イテウォン)で起きた、150人以上が亡くなった圧死事故。事故当日の10月29日夜から明け方にかけて、事故による死亡者と負傷者の人数や現地の状況を知らせる速報が鳴り止まなかった。事故現場である梨泰院の坂道では、冒頭のような言葉が飛び交った。動画から聞こえた、女性がありったけの力で「(命を)助けてください」と泣き叫ぶ声がいまも筆者の耳から離れない。

事故翌日から11月5日までは、国家公式の哀悼期間だった。地下鉄 梨泰院駅1番出口のすぐ側は白い花と犠牲者へのメッセージが書かれたポストイットの紙で埋め尽くされていた。事故から1週間以上経ったいまも、韓国は遺族を中心に深い悲しみにつつまれている。

同時に、国民は政府への怒りが止まらないようだ。

3年ぶり「ノーマスクハロウィーン」の悲劇


梨泰院のメインエリアであるハミルトンホテル付近の坂道は、クラブや居酒屋がずらりと並んだ賑やかの通りで有名だった。コロナ禍で大ヒットしたドラマ『梨泰院クラス』では主人公が梨泰院でハロウィーンを楽しむシーンがあった。ドラマを通してより一層人気となったパーティースポットだ。

特に、今年のハロウィーンは「3年ぶりのノーマスクハロウィーン」として韓国で話題になっていた。学生にとって、数年ぶりに羽目を外して友人たちと楽しめる日だったのもあり、例年より多くの人が押し寄せた。

10月29日18時の時点ですでに坂道は人で箱詰め状態だったと言われている。18時34分に当日初めての一般人による警察への申告があった。しかし、深夜にかけて状況は悪化し、転倒した人たちの下敷きになって抜け出せなくなってしまった人や、立ったまま人混みに押しつぶされ気絶してしまった人が大量発生した。

追悼集会で挙がった悲痛な叫び


11月5日夜には、ソウルの街頭で追悼集会が行われた。ろうそくと「梨泰院惨事の犠牲者を追悼します」と書かれたプラカードを手に、数千人が集まったという。目的は市民による犠牲者の追悼と、政府への怒りを訴えるためだった。

「(犠牲者たちを)救えたはずだ!尹錫悦(ユン・ソギョル)は、責任を取れ!」、「(事故は)防げた! 国家は何もしなかった!」と、尹錫悦大統領と韓国政府を非難する声が街頭に響いた。街頭に集まった市民たちは、警備体制が十分でなかったことに対して責任を取れなかったと糾弾した。

梨泰院事故後の集会
11月5日夜に開かれた追悼集会 (Getty Images)
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文=裵麗善/Ryoseon Bae

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