経済・社会

2022.11.08 17:00

梨泰院事故の後に 韓国人が直面する怒り、悲しみ、トラウマ


追悼集会の参加者からは、「責任を負わない政府に怒りと苦しみを感じて、集会に繰り出しました」や、「セウォル号に続き、またもや若者たちが犠牲になる事故が発生しました。20代の息子を持つ親として、今回の事件を受けてじっとしていられません」といった声が挙がった。

「梨泰院惨事」ではなく、「10・29惨事」へ


一方で専門家たちは、世間に事故に対する慎重な言及と対応を訴えている。1つは、事故の呼び方についてだ。いま「梨泰院が危険な場所という烙印を押すことで、住民を苦しめることになる」懸念が、現実になりつつある。

たとえば、韓国のメディアMBCは11月6日に、事故の呼び方を「梨泰院惨事」ではなく「10・29惨事」に変更すると発表した。梨泰院の住民や商人たちの生活やビジネスに、事故による被害・苦痛をこれ以上もたらさないためであるという。過去に「珍島旅客船沈没事故」を「セウォル号惨事」と事故の名称を地名を入れずに言い換えた事例もある。

もう1つは、梨泰院の事故現場にいた人の「トラウマ」の対処についてだ。

韓国のメディアMBNは、事故現場で負傷者にCPR(心肺蘇生法)をしたという一般男性にインタビューした。「6人もCPRをしたのに、誰も助けられなかったんです……」と、男性は自責した。他にも、人混みの中で無事生存した女性も「無事生き残ったとほっとした後、スマホを見て私がどんな状況にいたのかはじめて知りました。事故の全体像を見て、また苦しくなりました」と語っている。これに対して韓国の専門家たちは、事故当日の惨事を描写した記事や動画を「簡単に人の目に届いていい内容かどうか考えて対処しなければならない」と指摘している。


現場にいた人の心の傷を伝えるMBNのニュース

どの国でも、他人事ではない事故


人が一箇所に押し寄せて、多くの人が命を落とす事故。これは決して他人事と言える事故ではない。2001年7月には、兵庫県明石市のJR山陽本線・朝霧駅の歩道橋で、花火を見るために大勢の人が集まり、11名が死亡した事故もあった。

筆者自身、過去にこのような事故現場を経験したことはないが、最近は満員電車や人の多いイベント会場を見たり想像したりするだけで、梨泰院で起こった事故を思い出し気持ちが焦り不安になる。

今後も韓国では梨泰院の事故を巡って、事故発生のより詳細な原因が追及され、被害者・遺族のメンタルケアなど、あらゆる側面で議論が展開されていくだろう。

今回の惨事をきっかけに各国で人混みの規制への注意や関心がより高まり、2度と同じような事故が起きないことを心の底から願う。

文=裵麗善/Ryoseon Bae

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