フォーブスの寄稿者のひとりであるジョン・トビーも論じているように、ドル高はたしかに米国にとってはプラスにはたらく。だが、それ以外の国や地域では必ずしもそうではない。
欧州が抱えるジレンマ
欧州でもインフレが高進しているが、その原因は米国とはかなり異なる。米国の物価上昇は主に、新型コロナ対策で行った大規模な財政出動が原因だが、欧州ではロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー供給危機の影響が大きい。
こうした状況でのドル高によって、欧州中央銀行(ECB)と英国のイングランド銀行はジレンマに直面している。両行とも、利上げしてもインフレ抑制にはたいして効果がないことはわかっている。借り入れコストがどれだけ上がったところで、欧州へのエネルギー供給が増えるわけではないからだ。
一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)とほぼ足並みをそろえて利上げしなければユーロやポンドの価値が下落することも、ECBとイングランド銀行は知っている。両行がひとまず選んだのはこちらの利上げという選択だ。
それでもユーロの対ドル相場は、1年前の1ユーロ=1.17ドルから足元では1ドルをやや下回る水準に落ち込んでいる。ポンドも1年前の1ポンド=1.39ドルから最近は1.16ドルに下がっている。
問題は、通貨が下落している国はインフレを輸入する傾向があるということだ。世界の大半のモノはドルで値段がつけられるためだ。
これまでのところECBとイングランド銀行は、もともと脆弱な経済を一気に冷やす大幅な利上げは控え、もう少しゆっくりと経済を蝕んでいくインフレを輸入するほうを選んでいる。結果はもちろん悪いものだろうが、そこまでひどくはなさそうだ。
新興国やフロンティア国はより深刻
一部の新興市場国は、自国通貨でなくドル建てで借り入れを行っている。たとえば、インドネシアは2020年時点で国内総生産(GDP)比7%を超えるドル建て債務がある。
インドネシアの通貨ルピアも今年ドルに対して下落しており、インドネシア政府の債務負担は増している。政府は利払いのために、値上がりしているドルを市場で調達するかドル準備高を取り崩す必要があるが、これまで後者を選んでいる。
インドネシアについては、商品輸出が今年堅調に推移し、経済成長も好調だという明るいニュースもある。とはいえドル高がさらに進めば、ドル建て債務を抱えるインドネシアやほかの新興国は財政難に陥りかねない。これは欧州に比べるとより悪い結果に違いないが、耐えられないほどではないだろう。
ドル高の影響でもっと深刻な結果になるおそれがあるのは、パキスタンのようなフロンティア市場国だ。
2020年3月末に米国や欧州がコロナ対策で経済活動を制限すると、資本は安全な米国債に逃避し、パキスタン・ルピーは対ドルで史上最安値を更新した。
コロナ禍前には楽観的な見通しだったパキスタン経済だが、危機が進むにつれて投資家は資金を国外に引き揚げ始めた。ルピーは引き続き下落し、経済はさらに苦境が深まった。
トレーディングエコノミクスによると、2019年に約1500ドルだったパキスタンの1人当たりGDPは2022年末には1250ドルに減る見通しとなっている。
(forbes.com 原文)