コロナ禍で日本への渡航も困難な時期でしたが、名古屋に数日滞在をして、工房を回って撮影しました。その後、感想を聞くと「素晴らしかったわ! モノも、土地も、人も全部!」という言葉が返ってきて、とても嬉しい気持ちでした。
出来上がった映像では、何年も繰り返されてきたであろう職人の動作や会話から溢れるひととなりを丁寧に追い、音や空気が新鮮な視点で切り取られていました。
彼女のフランス語訛りの英語で紹介するこの映像は会期中に会場で流されて、訪れたことのない遠くの場所へ、来場者の想像を掻き立てる役割を担っていました。情熱を伝えるのは自分たちだけでなく、異なる文化の人たちでもできるし、時にはその方が素直な動線が描けるのだと感じました。
Mai Hua / Creatino as DIALOGUE
2週間半続いた展示会には、パリ在住者に限らず、世界中から600人以上が来場。セレクトショップのバイヤーや有名ブランドのデザイナーの方々なども迎え、無事に会期を終えました。名古屋から来た職人さんとのセミナーやワークショップなども開催され、現地の方々との交流が生まれ、自分たちの手仕事を称賛されることで、誇らしさが背中に溢れていました。
白紙から始まり関係者の情熱で進んだプロジェクトは、地域の魅力を引き出し、長く伝わる伝統工芸の継続と循環を生み出す一歩になったと感じています。そして何より、当初の目的であったバイヤーからの注文が入り、「お披露目会で終わらせず、ビジネスにつなげる」という目標を達成することもできました。
プロジェクトの最初に、「手元にある価値を再認識」に加えてもう一つ伝えたことがあります。それは「プロジェクトの主役は、あなたたちものづくりをする職人です」ということ。日々実直に誠実にものづくりをする人たちに1年半触れ合いながら、その姿勢や眼差しがとても美しいものだと改めて感じました。
いま日本が改めて価値を問い直している時期だと感じます。正解はないですし、地域によっても特性もさまざまで、これはあくまでも名古屋市が行った一つの進め方です。1回目の展示を終えてアップデートできる課題も見えてきました。ただ、日本の価値はますます世界で見直されていくことになると、欧州に身を置いて日々肌で感じます。そのときに僕らは何を話せるのか。見せられるのか。どう魅力的に思ってもらえるのか。
2022年現在、パリで行列ができるのは、エルメスと和食屋です。秋も深まるパリのラーメン屋に並びながら、これからの日本の価値のあり方を考えていました。
連載:異なる文化と多様なものさし