牧:日本のスタートアップ・エコシステムの強みの一つが、大企業の存在です。大企業は過去数十年、イノベーションのエンジンとして日本経済を牽引してきました。それが近年、その役割が少しずつスタートアップに移行しつつあります。その結果、大企業とスタートアップ間の協業がいっそう重要になっています。大企業はアクセラレータと提携したり、スタートアップと協業する道を探ったりすることで、ベストプラクティスを模索しています。
私は2005年頃から多くのアクセラレーションプログラムを見てきましたが、アクセラレータもテクノロジーのトレンド(潮流)と共に変化し、産業や技術に合わせて変わってきた印象があります。テックスターズは、過去に多くの大企業と組んできましたが、スタートアップと組むのが上手な大企業の特徴とはどういったものでしょうか。
ガヴィ:テック業界では、アクセラレータに参加するのはソフトウェア企業が中心で、ハードウェア企業などのノン・ソフトウェア企業は相性がよくないと思われていますが、じつは過去の実績からは成功例が多くあります。私は、業界というよりもむしろ、チームの問題ではないかと考えています。
チームを適切なメンターや投資家に引き合わせてあげられるかどうか、ですね。相互の関心やネットワークなどを考慮してマッチングし、支援できるかどうかがアクセラレータとして重要なのだと思います。
牧:一般的にアクセラレータは、スタートアップをプログラムに選抜した段階でシード資金を出資し、プログラムを経て数カ月後にデモ・デイと言われる投資家向けのプレゼンテーションを行うことが多いと思います。
そのビジネスモデルに合わせるため、初期コストを抱えながら、デモ・デイまでにプロダクトを開発するのは、ハードウェアやバイオテクノロジーなど、事業領域によっては至難の業です。そういった条件を満たしたあとは、チームが重要であることに私も異論はありません。とはいえ、立ち上げの段階で求める条件としてはかなり厳しいですよね。
ガヴィ:その点はまったくご指摘のとおりです。アクセラレータのプログラムに参加する段階で、プロトタイプ(試作品)があったほうがはるかにことを進めやすいと思います。ソフトウェア企業の場合は、プロトタイプではなく、使えるレベルのものがあったほうがいいでしょう。それでもテックスターズでは、ハードウェアにせよ、バイオテクノロジーにせよ、あらゆる領域で成功した実績があります。
デモ・デイでお披露目するのは実際の製品ではなく、開発中のプロトタイプかもしれませんが、大事なのは、スタートアップが資金を調達し、パートナー企業と提携することで成長できるよう支援することです。ソフトウェア企業とはデモ・デイの位置付けが少し異なるだけです。それに、早い段階で初期資金を出資することで、スタートアップごとにデモ・デイの位置付けをカスタマイズできます。
アクセラレータの役割はスタートアップを支援することですが、プログラムそのものは参加者全員が何かしらを持ち寄ることで成り立つと私は考えています。
例えば、大企業には膨大な知識や優れた人材がありますが、スタートアップほど機敏ではなく、固定観念や業界の慣習に縛られていることがあります。そこへ、スタートアップが大胆な発想や行動力をもたらすわけです。テックスターズのようなアクセラレータは、その仲立ちである、いわば「通訳」のような役割を果たしているのではないでしょうか。両者にすでにあるもの、足りていないものを間に立って一緒に考えてあげているのだと思っています。