牧:世界全般では、こうした議論はもうかなりの間、続けられてきたと思います。特に、スタートアップ・エコシステムに関して言えば、DE&Iに関する議論は繰り返されてきました。ここ数年で、大企業やスタートアップ、ベンチャー投資家、規制当局はようやくその重要性に気づき、問題の解決に本腰を入れようとしていると理解していいのでしょうか?
ガヴィ:世の中全般で、真剣に考えるようになってきています。ただ、これがあまりにも複雑な問題であるため、どのようにアプローチするべきなのか、必ずしも多くの人が理解できていません。例えば、ダイバーシティと聞くとジェンダーを思い浮かべる人が多いですが、ジェンダーだけではありませんよね。ジェンダーといった性自認はもちろん、人種、国籍、宗教、年齢など、文字どおり“多様”なのです。
テックスターズでは、起業家と一緒に多様なチームづくりについて話し合っています。スタートアップによっては、新入社員をリクルートするプロセスを変えるなどによってそれを実現しています。ただ、その解決法は会社ごとに異なります。DE&Iとは解決しておしまいという問題ではなく、人類が生存している限り、挑み解決し続けなくてはいけない問題なのではないでしょうか。
牧:私は日米の両国でDE&Iについて教えていますが、日本のオーディエンスに教えるときの方がわかってもらうのに苦労します。若年世代はDE&Iの重要性と便益をとてもよく理解しています。ただ上の世代は重要性についてはわかっても、その便益を図りかねているようです。DE&Iが人類にとって取り組むべき重要な社会課題であることは言うまでもありませんが、ビジネス面での便益もあります。DE&Iのビジネス面の便益についてはどう考えですか。
ガヴィ:ダイバーシティが本質的に重要なのは、「遭遇したことがない問題を自分だけで解決する」ことが不可能ではなくても、とても難しいからです。「出産」が一例です。男性は、女性に特有の出産を経験できないため、概念は理解できても、出産そのものにまつわるリアルな課題を解決するのは簡単ではないでしょう。
これは特殊な例ですが、世の中一般でもテクノロジー企業が直面している課題は往々にして、性別や人種、年齢を超えてチームで取り組んだほうが解決しやすいものです。どのようなスタートアップも、いざプロダクトを世に発表してみたら、自分たちの開発チームでは想像しえなかったようなことを考えさせられます。そして少なくとも多くの調査結果を見る限り、ジェンダーバランスがよりよい取締役会やチームをもつ上場企業のほうが業績も優れている傾向があります。