ブルームバーグの報道によると、中国の工場で働いていた米国人はすでに去り始めているという。もしハイテク分野のライバルを足止めできる戦略があるとすれば、こうしたやり方なのかもしれない。
もっとも、この戦略はバイデンのチームのオリジナルではない。筆者が米国家安全保障会議(NSC)にいたとき、ドナルド・トランプ前政権は、米国産の製品や技術を用いた製品を輸出管理の対象にできる「直接産品規定(DPR)」と呼ぶ規制を駆使して、中国のハイテク大手ファーウェイが世界の5G市場を支配するのを押しとどめようとした。
バイデン政権は同じルールを使って、韓国のような同盟国などからも、AI(人工知能)やスーパーコンピューターの開発にかかわっている中国の企業や機関に先端半導体が販売されるのを阻もうとしているのだ。
米議会は先ごろ、「国内半導体産業の活性化とイノベーションの促進」に520億ドル(約7兆8000億円)を充てる通称「CHIPS法案」を可決した。台湾の大手半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)は、アリゾナ州に大規模な工場を新設することに同意した。これらも考え合わせると、米国の半導体産業は再び軌道に乗ってきたようにも思える。だが、それは早計だ。
現在、ハイエンド半導体集積回路のじつに90%は、台湾で生産されている。その台湾に対して、中国が武力侵攻も辞さない構えをみせているという問題は、依然として残ったままだ。
ハドソン研究所の同僚であるマイク・ポンペオとヴィヴェク・ラマスワミがウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で述べているように、台湾の半導体産業基盤が崩壊すれば大規模で長期にわたる経済メルトダウンを引き起こすおそれがあり、その場合、米国の半導体産業も壊滅的な影響を受けるだろう。
ただ、米国が半導体の調達をほかの国や地域(たとえそれが台湾や日本、韓国といった信頼できるパートナーや同盟国であっても)に過度に依存しているというのは、より大きな問題の一部にすぎない。米国は、戦時を含め、混乱に対してあまりに脆弱なグローバルなサプライチェーン(供給網)に、過度に依存しているという問題だ。