「国民皆歯科健診」と初めて明記されたため話題になりましたが、実は2018年の骨太方針から「生涯を通じた歯科健診」の必要性については記載されていました。ちょうど4年前のコラムで、痛くなる前に歯科医院へ行くことを提案していた私としては、このような社会の流れは嬉しい限りです。
実は、コラム掲載後、歯科医師や研究者、歯科関連企業の方々から、歯科領域の重要性をもっと発信してほしいと連絡をいただきました。オーラルケアは生活動線上の行動でありながら、歯周病が糖尿病や認知症のリスクを高めること、妊婦の早産及び低体重児の出産のリスクを高めることなど、歯科に関するビジネスパーソン向けの情報が不足していたのです。
それを受け、私が得意とする健康経営を起点に企業啓発を行うため、企業や健保の健康担当者にヒアリングを開始しました。すると、無料歯科健診は実施しているものの利用率が5-10%に留まるなど、歯科領域に注力している企業は100社中10社もありませんでした。特に中小企業はすべて未着手だったのです。
また、健康保険組合連合会の実施するアンケート調査によれば、企業の3割程度しか歯科健診を実施していないのが実態です。
オーラルケアを怠ると損をする?
この現状を変えるため、企業向けの歯科セミナーや歯科衛生士の出張ケアなどを行い始めたところ、驚くような結果になりました。
どのセミナーにおいても9割以上の方が「歯科医院に行こうと思った」「デンタルフロスを利用しようと思った」など、行動喚起やリテラシーの向上がみられました。その場で歯科受診を予約する、ケアアイテムの購入するといった即効性も確認できました。
セミナーでは、難しい医療情報だけでなく、口や歯のケアとパフォーマンスアップの関係性、オーラルケア先進国と日本の比較、オーラルケアを疎かにした場合の金銭&時間損出についてなど、自分ごと化できる内容がフックになりました。歯科衛生士によるケアでは、デンタルフロスを左半分だけ行い、左右差の違和感を感じてもらうなど、実感がカギとなったようです。
損失について補足すると、産業医科大学の永田准教授らが2018年に行った「健康上の不調がもたらすプレゼンティーズムによる労働損失額(推計)」の調査では、「歯の不調」により、年間3200億円の労働損失になると推計されています。また、ひとりあたり年間8917円の損失という調査結果もあります。
健康経営においては、オーラルケアに限らず、食事、睡眠、姿勢に関するセミナーも実施していますが、ある企業では、セミナーで得た健康習慣に関して、オーラルケアの定着率が約80%(食事:50%、睡眠:約70%、姿勢:約35%)と、もっとも高いという結果が出ました。
冒頭に述べたように、骨太方針に歯科検診が入ったことはひとつのターニングポイントです。従業員の健康やパフォーマンスアップ、その延長線に企業の成長を見るうえで、こうした即効性、定着性のあるオーラルケアの導入を後押しできたらと思います。
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