経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第5回目は、「オルビス」代表取締役社長の小林琢磨 が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。
顧客価値を生み出す秘訣が満載された希代のビジネス書
栗俣力也(以下、栗俣):『こち亀』を選ばれた理由は?
小林琢磨(以下、小林):小学生のときに読んでいましたが、経営者になるときに改めて読み返しました。そのときに感じたのが、未来予測の正確さです。
「テレビでこんにちは!の巻」(第 59 巻)では、両さんがテレビ電話を使って 同窓会や結婚式を企画します。まだインター ネットどころか携帯電話すら普及していない1988年の段階で、秋本治さんはパンデミック下のzoom会議を見事に予想していました。
ほかの回ではルンバのような掃除機が出てきたり、「ガチャ課金」のようなゲーム課金が出 てきたりと、現代のイノベーターが『こち亀』 の未来予測をなぞっているかのようです。
そして、商売魂と行動力。「省エネ大作戦!の巻」(第72巻)での両さんの行動力は半端ではありません。寮の電気代が2倍に値上がりして困っている人がいると、「わしがなんとかする」と言って行動を開始します。太陽光パネルを自分でつくり、ビル風を利用して風力発電を始め、生活排水が流れる下水は「自然の滝だ」と言って水力発電まで実現するのです。
「困っている人を助けたい」という愛に突き動かされつつ、ついでに売電で儲けてしまえと商魂も発揮します。このアイデア、行動力、そして商魂が、すごく印象に残りました。
栗俣:そのエピソードを最初に読まれたのは何歳のときですか?
小林:1991年の「ジャンプ」に掲載されていたので、中学1〜2年生の頃ですね。1980年代の「テレビでこんにちは!の巻」(第59巻)は、小学校高学年ぐらいのときです。
栗俣:その頃は当然、商売のことまでは考えていなかったですよね。
小林:当時はそこまで考えていませんでしたが、「こんな未来が来たらワクワクするな」「両さんのこの根性はすごい」などと思っていましたね。
僕がいちばん好きな話は「シルバー・ツアーの巻」(第45巻)です。
敬老会の20人がハワイ旅行を楽しみにしていたのに、旅行会社にだまされて旅行計画がオジャンになってしまいました。両さんは「わしにまかせろ!」 と言ってニセモノのハワイ旅行を計画します。実際は葛飾区から神奈川の三浦海岸へ移動 しただけなのに、敬老会のみんなは毎日ドンチャン騒ぎで旅行を満喫するのです。