(c)秋本治・アトリエびーだま/集英社
小林:旅行代金をだまし取った詐欺師は逮捕され、300万円は無事戻ってきました。すると敬老会 の20人は「本物のハワイより楽しい旅だった」と言って、300万円は全額両さんにプレゼントすると言うのです。
みんなうすうす「どうもここはハワイじゃないぞ」と気づいていたものの「だましたな!カネを返せ!」なんて野暮なことは誰も言いません。困っている人を喜ばせるために無類の行動力を発揮した結果、お金には代えられないプライスレスな顧客価値を生み出してしまう。
顧客価値を提供するどころか、顧客価値そのもので、僕はこの話が大好きなんです。両さんの心の奥底にユーモアと愛があふれているおかげで、人々がお互いを受容し合い、人間関係のグッド・サイクルが回っていくのです。
栗俣:両さんが行動に出るきっかけは常に、周囲の人たちの困っている声。すべての行動が顧客価値から始まっているところが、両さんのパターンなんですね。
小林:「シルバー・ツアーの巻」も「省エネ大作戦!の巻」もそうですね。みんなが困っているときに何とかしようとするアイデアと行動力。これこそ起業家に必要なものです。
栗俣:アイデアを行動に移し、実際に形にしていく。小さな思いつきをスケールさせていく流れも、起業家に必要な部分だったりしますね。
小林:「SDGs」や「サステナビリティ」、「パーパス(purpose=企業の存在意義)」といったテーマで議論をしようとすると、とかく崇高な話になりがちです。経営者のなかには、「戦争をなくしたい」「人類を火星に連れて行きたい」と、ビッグビジョンを唱える人もいます。
僕はそういうタイプではなく、目の前の人に喜んでもらうことこそが大事だと思っています。
例えば、毎日ストレスにさらされ、しんどいときにはお肌の調子が悪くなってテンシ ョンが下がります。お肌の手入れをして自己肯定感が上がれば、友達とおいしいご飯を食べに行くのが楽しみになるでしょう。
僕は化粧品ビジネスを通して、日常生活のなかでの人々のリアルな喜びに、どこまでも寄り添っていきたいと思っています。リアルなベネフィットを追求し続ける先に、社会貢献もあると考えるからです。
両さんにはそのリアルさがあるので、僕はいつも頭の片隅で「両さんならこの場面でどう振る舞うだろう」と問いかけています。