栗俣:両さんの感覚は、小林さんの考え方にすごく近いんですね。
小林:本当に身近な人に喜んでもらえるものこそ、たくさんの人にスケールしていくと思うんです。それがやがて、世界に至る。両さんの場合は宇宙規模になったりするんですけどね(笑)。
『こち亀』は、僕のビジネス観を形成した原典のような位置づけなんです。何かあるたびに思い出し、経営者になってからも幾度となく読み返しています。
小林:『こち亀』を読むと、思考の構成を整理できるんです。困っている人に対してのアプローチの仕方や、さまざまなアイデアや行動力が示されている。ちゃんと失敗もしますしね。
こちら葛飾区亀有公園前派出所 秋本 治 JUMP COMICS 全201巻
1976年から40年間『週刊少年ジャンプ』に連載されたギャグ漫画の金字塔。下町の派出所に勤務する両津勘吉の周りで起きるドタバタ劇を描く。21世紀を予見するビッグビジネスを、20世紀の段階で次々と成功させる様子は「ビジネス書」としても読みごたえアリ。
栗俣:人間関係でも学ぶところはありますか?
小林:愛とユーモアですね。人間だから、ちょっと欲が出て失敗することもあるけれど、愛とユーモアがあるから、人間関係が良好になる。
僕がやりたいのは、人と人との関係のグッド・サイクルを回すこと。ダイバーシティとは、違う考え方を受容できることだと僕は思っています。でもそれは、自分に余裕がないと受容できない。自分に余裕があると、人の考えを否定せずに一回受容できる。その自己肯定感が社会全体で高まれば、ダイバーシティにつながっていくのだと思います。
そうやって考えると、両さんのようにユーモアと愛があることは、とても大事なことだと思うんです。人の関係のグッド・サイクルが回っているから、他人を受容できるし、愛とユーモアがあるから絶対に崩壊しない。
栗俣:30〜40年前の漫画なのに、読み返すたびに常に新しい発見があって、学ぶことがある。究極の本質を突いている漫画なんでしょうね。『こち亀』は下手なビジネス書よりずっと示唆深い。
小林:本当にそう思います。きれいごとではなくて、すごくリアルだから、生活の中に紐づいている。どんなビジネスをしていても、誰かが顧客です。その顧客にはリアルな生活があります。『こち亀』には、それがすごく感じられるんですよね。手触り感がある。
ミッションやパーパスといった、きれいごとで頭でっかちになりがちなところを、両さんが現実に戻してくれる。僕にとっては、顧客価値を生み出す秘訣が満載されたビジネス書のような存在です。
こばやし・たくま◎1977年、埼玉県生まれ。オルビス(株)代表取締役社長。2002年、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。09年にグループの社内ベンチャーブランドで立ち上げたディセンシア取締役、10年代表取締役社長。17年オルビス取締役、18年より現職。ポーラオルビスホールディングス取締役、トリコ(株)取締役を兼務。早稲田大学大学院MBA。
栗俣力也◎TSUTAYA IPプロデューサー。「TSUTAYA文庫」企画など販売企画からの売り伸ばしを得意とし、業界で「仕掛け番長」の異名をもつ。漫画レビュー連載や漫画原案なども手がける。