乗り遅れた日本がルール形成で主導権を握るには

shutterstock

「世界の市場では、ルールを握った者が勝つ。技術が優れていれば勝てるという考えは、もはや妄想でしかない」。ISO(国際標準化機構)の国際議長を務め、国際規格づくりの第一線に身を置く多摩大学ルール形成戦略研究所の市川芳明客員教授は、こう喝破する。ルール形成に積極的に参画していかなければ、日本はこの先、国際競争から完全に取り残されてしまうと警鐘を鳴らす。

国際規格の獲得をめぐり各国がしのぎを削る場で、いま何が起きているのか。


国際標準の世界でイニシアチブを握ってきたのは、これまでは圧倒的に欧州だった。その影響力はEU本部所在地にちなんで「ブリュッセル・エフェクト」と呼ばれたが、近年は「北京エフェクト」に取って代わられようとしている。標準づくりが国力拡大につながると気づいた中国が、国を挙げて強化に乗り出したのだ。

標準のとらえ方は、国によって大きく違う。欧州では、標準は法律を補完するものと位置づけられ、標準化を政策的に活用する体制がつくられている。米国では標準が法律に組み込まれており、省庁が規格づくりを担うので、国内標準重視の姿勢が強い。

一方、日本にはJIS(日本産業規格)という国家規格があるが、法律への引用は任意のため、JIS自体には法的拘束力がない。それゆえ日本では規格のありがたみが理解されず、企業はJISを制定しただけで思考停止に陥ってしまう。こうした意識の低さが、カーボンニュートラルのルールづくり(図参照)で日本が取り残されるという結果を招いたのだろう。

独特なのは中国で、法律と規格がほぼ同一にとらえられている。そのため国際標準化は国家政策と位置づけられ、2001年のWTO加盟後は戦略的に取り組むようになり、いまや覇権争いに食い込む存在だ。

その猛攻を、欧州はあの手この手で阻もうとしている。対抗策のひとつが、27年に欧州全域で施行予定の「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」だ。サプライチェーンの資源循環性や温室効果ガス排出の可視化を義務づける法律で、欧州はこの規制を利用して、世界を有利に動かそうとしている。今年2月に発表した新標準化戦略では中国への警戒感をあらわにしており、危機感は明らかだ。

国際バトルが繰り広げられるなか、日本に勝ち目があるのはドローン分野だ。政府がドローン活用を優先施策に掲げ、市場拡大を狙った産業政策を推し進めていることから、いち早く国際標準化に関与し、特に運航管理システムの規格づくりについては日本主導で行っている。
次ページ > 思い出すべき「Suica」の教訓

文=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事