経済・社会

2022.10.13 11:45

乗り遅れた日本がルール形成で主導権を握るには


ここで思い出すべきは、「Suica」の教訓だろう。00年、JR東日本がソニー開発のFeliCa(非接触ICカード)方式を前提に調達をかけたところ、米モトローラにWTO違反で異議申し立てされたのだ。間一髪で難は免れたが、このような提訴事案は枚挙にいとまがない。日本の通信業界が国際標準に敏感なのは、5Gで辛酸をなめた経験があるからだ。

ルール形成が今後の日本の経済成長の鍵となるのは間違いない。日本がその国際舞台で存在感を発揮するには、一刻も早くプロフェッショナルファームを設立することだ。英国やフランスでは、こうした組織は50年も前から存在している。

グローバル企業に目を向けると、どこの会社にも標準化の専門部署があり、専門のスキルをもった人材がルール形成の場で活躍している。日本は欧州ほど法律と規格が密接ではないので、企業が自前で標準に特化した人材を育てるのは難しい。

例外は日立やソニーで、外資系企業の買収を繰り返してきたおかげで、標準化の感覚が備わった人材を社内に擁することになった。ソニーは国際標準化の本部をベルリンに構え、同社の標準化をドイツ人のチームが一手に引き受けている。

私の提案は、政府主導でプロフェッショナルファームを設立し、そこでエキスパート人材を育成するというものだ。株式会社化して、国あるいは企業から委託を受けてもいい。国際標準化ができる人材こそが、社会のルールを変えることができる。(談)


市川芳明◎1955年生まれ。東京大学工学部卒業後、日立製作所入社。IEC TC111(環境規格)前議長、ACEA(環境諮問委員会)日本代表、およびISO TC268/SC1(スマート都市インフラ)前国際議長。近著に『「ルール」徹底活用型ビジネスモデル入門』。

文=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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