新たなブームとなるか、老舗そば店がニューヨークに初出店

Getty Images

米国でいま一番人気の日本食と言えば、寿司とラーメンだ。しかし、米国人は何かを見落としている。それは「そば」だ。

日本人は、ラーメンや寿司よりもずっと頻繁にそばを食べている。

日本人はなぜ、それほどまでにそばが好きなのだろうか。

「日本人がそば好きな理由はたくさんある」と話すのは、東京・麻布十番にあるそば店「更科堀井」のそば職人で、9代目社長の堀井良教だ。

そば店「更科堀井」が創業したのは1789年(寛政元年)。ジョージ・ワシントンが米国の初代大統領に就任した年だ。更科堀井は代々、将軍家や天皇家にそばを届けてきた。そして2021年7月には、海外初出店となるニューヨーク店をオープンした。これぞ日本食といえるそばを、世界に広めるためだ。

日本人がそばを食べる理由が、「体にいいから」ということはなさそうだ。しかし、そばには大きな健康効果があるとされている。

堀井によると、そばには、麦と比べて2.5倍もの必須アミノ酸が含まれている。必須アミノ酸は、筋肉強化、免疫機能や代謝の維持など、体の基礎をつくるさまざまな要素に欠かせない栄養だ。

どの食材を食べると血糖値がどのくらい上昇するかを示す指標に、グリセミック・インデックス(GI値)がある(この値は、低ければ低いほうがいい)。そばのGI値は一般的に54(挽き方や種類によって少し幅がある)だが、精製された白い小麦は85だ。

そばは、ルチンが豊富に含まれていることでも知られている。ルチンは強い抗酸化作用をもち、肌の老化や高血圧、卒中、がんなどを防ぐ効果がある。

そばを巡る有名な逸話がある。江戸時代に、そばのおかげで人々の脚気(かっけ)が治ったというのだ。脚気は、ビタミンB1が欠乏すると起きる。当時、精製された白米が広く普及した結果、多くの人が脚気にかかるようになった。玄米を食べなくなったため、ビタミンB1が摂取できなくなったのだ。やがて人々は、そばを食べると脚気が治ることに気づいた。こうして、そばの人気はさらに高まった。

さらに、そばはグルテンフリーなので、小麦を摂取できない人にとっては絶好の代替食材だ。ただし、注意してほしいのだが、市販されている一般的なそばの麺は、そば粉80%、小麦20%でできている。そば粉を練ったときに扱いやすいよう、小麦のグルテンを少し足しているのだ。しかし、そば粉だけで作った十割そばも売られており、入手もしやすい。

ラーメンに続いて「そば」ブームは来るか


更科堀井は2021年7月に、マンハッタンのフラットアイアン地区に店をオープンしたが、ニューヨークにはこれ以前にも、有名そば店が出店したことがあった。

いまでも記憶に残っているのが「本むら庵」だ。1924年(大正13年)に東京・荻窪で創業した同店は、1991年にニューヨークのソーホーに支店をオープンした。1993年にはニューヨーク・タイムズ紙で三ツ星を獲得した。そば好きが増えるきっかけをつくったが、オーナーが帰国したため、2007年に閉店した。

2008年には、ニューヨークの有名フランス料理店『ジャン・ジョルジェ』のオーナーシェフで起業家のジャン・ジョルジュ・フォンゲリヒテン(Jean-Georges Vongerichten)が、東京・恵比寿の「松玄(まつげん)」と共同で、トライベッカにそば店をオープンした。このそば店は、質の高いそばを提供すべく、昔ながらの石臼も日本から輸入し、ニューヨーク・タイムズ紙で三ツ星の評価を得た。2011年に閉店するまで、同店には有名シェフたちを含む常連客が足を運んだ。

そばは、ニューヨークでさらに幅広い人気を獲得する可能性を秘めている。

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

ForbesBrandVoice

人気記事