コペンハーゲン名物「人魚姫像」を巡る物語

コペンハーゲン名物「人魚姫像」(Pocholo Calapre / Shutterstock.com)

デンマークの首都コペンハーゲンでは100年以上にわたり、海を見つめる小さな銅像が観光名所となっている。エドバルド・エリクセンが制作したこの銅像「人魚姫」は、1837年のハンス・クリスチャン・アンデルセンの同名のおとぎ話に基づいている。

王子と恋に落ち、人間になりたいと願う若い人魚を描いたこのおとぎ話は、文学形式の規範から外れ、ハッピーエンディングを持つ悲劇となっている。

この物語は世界中の子どもたちに愛されており、アンデルセンの最も有名な作品とも言えるが、ここまで知られるようになったのは、この銅像の存在と、ディズニーが1989年に製作したアニメ映画によるものが大きい。来年の実写映画化により、新たな世代にも人魚姫の物語が浸透することは間違いないだろう。

リオデジャネイロにあるコルコバードのキリスト像や、ニューヨークの自由の女神像と違い、コペンハーゲンを象徴する人魚姫の像は高さわずか約1.2メートルと小さいため、観光客の多くはそのサイズに驚く。

人魚姫像の物語


銅像の制作を思い立ったのは、アンデルセンでもエリクセンでもない。

デンマークのビール大手カールスバーグの創業者J・C・ヤコブセンの息子で、同社を世界的企業に育てたカール・ヤコブセンは、芸術品収集や慈善活動にも情熱を注いでいた。人魚姫の物語に基づいたバレエを鑑賞した彼は、バレリーナのエレン・プリースをモデルとした人魚姫の像の制作をエリクセンに依頼した。

人魚姫像の頭部はプリースがモデルとなったが、首から下の裸体部分については、像が世間から大きな注目を浴びることに気づいたプリースが嫌がったため、エリクセンの妻がモデルになった。

この像は100年以上同じ場所に立っているが、一度だけ別の場所で展示されたことがある。2010年の上海万博で、デンマークパビリオンの主役を務めるため、一時的に上海へと移送された。

抗議活動の人気スポットにも


この像は、人々から愛されるおとぎ話の登場人物をかたどったものであるのにもかかわらず、しばしば破壊行為や政治的抗議の標的となってきた。

男子サッカーのデンマーク代表チームがカタールで行われる2022年ワールドカップの出場権を得た翌日には、人権活動家による抗議活動に利用された。メディアやサッカーファンがW杯出場決定を祝う中、像はデンマーク国旗の色をした帽子をかぶせられ、「カタールでは1万5000人が死亡した。ワールドカップ万歳」と書かれたプラカードを持たされた。

この他にも、2度にわたり頭部が切断されたり、反捕鯨活動家やビーガン(完全菜食主義)支持者、イラクや香港、ウクライナを巡る政治的抗議活動に利用されたことがある。

コペンハーゲン当局は破壊行為や抗議活動を阻止するため、銅像を海側のさらに奥まで動かすことも検討してきたが、像は今のところ同じ場所にとどまっている。

(forbes.com 原文)

編集=遠藤宗生

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