破天荒な父が、娘に教えてくれたこと丨映画「ガラスの城の約束」

映画「ガラスの城の約束」より イラスト=大野左紀子

映画「ガラスの城の約束」より イラスト=大野左紀子

子どもにとって、親が永遠にパーフェクトであることはあり得ない。子どものころは尊敬し全幅の信頼を置いていた父親も、成長するに従って価値観のずれが生じたり、人間的な欠陥が見えてきたりすることがある。

だが大人になるとは、人間の強さや美しさだけでなく、弱さや醜さも受容していくことだ。一度は離反した父の像が再度、人間らしい深みを持って見えてくるのはいつだろうか。

今回取り上げる『ガラスの城の約束』(デスティン・ダニエル・クレットン監督、2017)は、実話に基づくドラマだ。原作はニューヨーク・マガジンの人気コラムニスト、ジャネット・ウォールズが幼少期からの半生を綴った『The Glass Castle』(2005)。個性的過ぎる両親の元での”普通”からはかけ離れた自身の生い立ちを赤裸々に綴り、大きな反響を呼んだ。

描かれているのは普遍的な親子の関係性


ドラマは、ジャネットが8歳だった1960年代末から家を出るまでの約10年間の回想の合間に、人気コラムニストとして成功し婚約者もいる現在進行形の時間が、時折挿入される形で進行していく。

冒頭は1989年、ジャネット(ブリー・ラーソン)が高級レストランで、婚約者である証券アナリストのデヴィッド(マックス・グリーンフィールド)の顧客夫婦と食事をするシーンから始まる。

この時代の強めのメイクに最新モードの肩パッド入りジャケットを着こなしたジャネットは、どこから見てもリッチな成功者だが、顧客に両親のことを尋ねられた時の硬い受け答えとデヴィッドのフォローから、仕事のために出自を隠しているらしいと見てとれる。

その後、タクシーの窓越しに目撃される”街角のゴミ置き場を漁る老いた男女”が、ジャネットの両親とわかる場面は衝撃的だ。

この後は回想シーンになり、ジャネットの幼少期からのエピソードが積み重ねられていく。ボロ車に家財道具を乗せて各地を転々とし、山奥でヒッピーのような生活を始める、エンジニアで反骨精神溢れる父レックス(ウディ・ハレルソン)と、天真爛漫で売れない画家の母ローズマリー(ナオミ・ワッツ)、そして放浪生活のため学校に通うこともままならない子どもたち。


「ガラスの城の約束」の監督とキャストたち / Getty Images

世間的に見たら、レックスもローズマリーもダメ親の烙印を押されるに違いない。自分の気ままな人生に子どもを巻き込んで親としてどうなのか?という批判はあるだろう。だがこの作品は、大人になった娘が毒親を告発するといった体のものではない。「パパっ子」だった娘が、やがて父と決裂してまったく別の世界に生きるが、最後は一人の人間としての父を受容する物語だ。
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文=大野左紀子

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