これは一般の人に限った話ではなく、心理学の研究者や第一人者も、自分たちの仮説をひっくり返すような現象が頻繁にある。
今回は、直感を覆し人間の行動の機微を改めて理解することができるかもしれない3つの事例を紹介する。
#1.幸せにこだわると逆効果になる
幸福の追求は旅のようなものだが、幸福は本当に目的地なのだろうか? 『Current Opinion in Behavioral Sciences(行動科学の最新知見)』に掲載された新しい研究によれば、そうではない。
カリフォルニア大学バークレー校の心理学者フェリシア・ザーワスは「幸福を極端に重視する人は、短期的にも長期的にも幸福を手に入れる可能性が低い」と述べている。
彼女の研究によれば、幸福を過剰に評価することで、特定の瞬間の肯定的な感覚が低下し、全体として心理的な幸福度や人生の満足度が低くなることがわかった。
このパラドックスを説明するために、ザーワスが引用したのは、あるグループの参加者には幸福に焦点を当てた偽の新聞記事を見せて幸福を大切にする価値観に誘導し、別のグループには幸福とは無関係な話題の記事を読ませた研究だ。
その結果、幸福を大切にする価値観に誘導された人は、他のグループの人と比べて幸福感が低いことがわかった。
ザーワスは「自分の幸福感や満足感に過剰にこだわると、人生の『もしもああしていたら』や『なぜそうなっていないのか』にばかり目が行ってしまって、逆効果になるのです」と説明する。
また、ザーワスは、幸福を追い求めるあまり陥りがちな、失望を招く2つの誤りについても言及している。
・ 1つは何が自分を幸せにしてくれるのかはわからないので、実際の役に立たない戦略をとってしまうのだ。たとえば、多くの人は(他人のためではなく)自分のためにお金を使えば幸福度が上がるはずだと信じているが、実証研究によると、自分のためにお金を使う人は、他の人のためにお金を使う人よりも幸福度が低いという逆の結果が示されている
・ また、社会的な圧力により、人は常に幸福を感じていなければならないという誤った考えが奨励されることがあるが、研究によればそれは間違った考えなのだ。(それがポジティブなものであれネガティブなものであれ)自分の感情を受け入れることで、時間とともに幸福感を高めることができる
ザーワスは、この幸福への道に立ちふさがる逆説的状況から抜け出せないでいる人たちのために、役立つ2つの脱出方法を説明している。
・ 1つ目は、幸福をうまく追求するための効果的な戦略を採用することに焦点を当てる方法だ。メンタルヘルスの専門家は、その人の状況に応じて、どのような幸せのエクササイズが最も効果的かを見極める手助けをすることができる
・2つ目は、感情的な目標を設定するプレッシャーを減らし、幸福を追求する過程で自分の感情を悪く捉える可能性を減らすために、マインドフルネスの実践に焦点を当てる方法だ