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2022.09.15 08:00

ストーリーの「山場」はどう作る? 言葉のプロに聞く共感の作り方


「『おそらく今後もこんな試練やこんな壁も立ちはだかると思います。でもそれを乗り越えるために、こういう解決策を実践してみることで最後は道が開けるはずなんです』と、ストーリーを織り交ぜて伝えていきます。

聞き手に、解決の過程とゴールをイメージできるようにする。天岩戸神楽の例と同じように、『最後は成功できるんだ』というメッセージを明確に示すことが大事です。そして相手が納得していないなら、分かってくれるまで、ひたすら繰り返し伝える。今コミュニケーションが上手くいっていないと感じているのなら、このプロセスが疎かにされているのかもしれません」

実際に蔭山が担当したクライアント企業では、社員の聞く姿勢に変化があり、社長メッセージの視聴者数が100人から500人に増えたという。

「君ならできる」でバリアを取り払う


蔭山はもう一つ、スターバックス創業者のハワード・シュルツを引き合いに出した。

ハワードが7歳の時、父親が交通事故に遭い足首を骨折。トラックの運転手としての職を失う。その後ブルックリンの貧民用の公営アパートで経済的に不安定な生活を送った。のちに娘を連れていくと『どうやってこんなところでグレもせずに育ったの?』と驚いたといいう。

「ハワードは、そうした苦しい人生経験をバネに成功を手に入れました。彼に比べれば、ほとんどの人は恵まれているはずです。多くの人は『社会はこんなものだ。自分はこの程度だ』というバイアスを持っています。良いスピーチは、そのバイアスに対して『そんなことはない。君ならできる』というポジティブな言葉を投げてくれるものなんです」

蔭山洋介

つまり、「心のバリアを取り払う言葉」が人の感情を揺さぶり、意欲を生み出すというわけだ。

バリアをなくす方法として、蔭山は原稿に「お土産」を置くことも実践している。

例えば、スピーチの最後に「達成すれば給与アップを約束する」などの要素を入れると、社員のモチベーションが爆発的に上がるというものだ。決して真新しいものではないが、これも「心のバリアを取り払う」有効な手法であり、目標を達成した後に待つ報酬を見せるという「ストーリー」も含まれている。

「お土産は金銭的なものに限らなくてもいいのです。社の方針を発表する際に、具体的な数値目標を併せて示してみたり、小さいものでもよいので+αを加えてみるのが有効です」

「スピーチはストーリーを伝えるためにある」


最後に蔭山は、オンラインで簡単に情報発信ができるようになった分、これからの経営者にはコミュニケーションに対する意識改革が求められると示唆した。

「オンラインの情報発信が気軽にできるようになった今、リアルと同様にコストやエネルギーを注いでいくべきです。心に留めておくべきことは、スピーチは事実を述べるためにあるのではなく、葛藤や苦労の要素が詰まったストーリーを伝えるためにあるということです」

文=吉見朋子 取材・編集=露原直人 撮影=藤井さおり

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