その役割は、スピーチ原稿を本人に代わって執筆し、企業の社内外に向けたより良いコミュニケーションを実現していくことだ。蔭山は、オンラインでの発信機会が増えた今、想いが伝わるかどうかは原稿の中身にかかっており「いかにストーリーを持たせるかが重要」だという。
言葉のプロが実践する、共感を生むストーリーの作り方を聞いた。
蔭山がスピーチライターとしての道を歩み出したのは2006年。現在は経営者や管理職など、年間で100人近いリーダーのスピーチを支える。
コロナ禍前までの対面が主流だった頃は、Apple創業者のスティーブ・ジョブズのように、大勢の聴衆の前で派手な身振りを交えた演出や声質が重視された。しかし今は、情報発信の形が変わり、スピーチの作り方にも変化が訪れているという。
「これまでのプレゼンはリアルな会場で行われていたため、派手な演出が好まれました。しかし、コロナの発生をきっかけに、オンラインによる配信が当たり前となった今は、原稿の中身に含まれる『ストーリー』が重視されています」
「山場」の作り方
蔭山は、コロナ禍、オンラインにふさわしいスピーチ方法を、自社スタジオで模索した。非対面でも情熱を届け、共感を呼ぶスピーチはどう作れば良いのか。原稿を作り上げるうえで意識するのは「共感を積み上げる」ことだ。
「以前観に行った熊本県の『天岩戸神楽(あまのいわとかぐら)』という伝統芸能を例にとって説明しましょう。これは天の岩戸にお隠れになった天照大神(あまてらすおおみかみ)を、力の強い手力雄命(たぢからおのみこと)が岩屋戸を取り除いて迎え出すために、試行錯誤する様子を表現した舞です。
この舞の面白いところは、『開けたい、でも開かない』という場面を何度も繰り返すことです。これを観ているお客さんは、成功するかしないかギリギリのシーンに引き込まれていきます。でも最後は開くことがわかっているからこそ『次こそ上手くいくのでは』という会場の一体感、つまり共感が生まれる。
これが、ただ『天岩戸を男が開けました』という展開では、何の共感も起こりません。
プレゼンの場でも同じです。例えばリーダーが苦戦を強いられているチームに対し、『解決策はこれ。実行してください』と説得するのではなく、結論を示した上で、なぜその経過をに至るのか説明することが大切です」