けんすう:そういう人ももちろんいます。「00:00 Studio」をやっている理由の一つは、漫画家を経済的・精神的にサポートしたいからなんです。
まだ売れてない漫画家は、作品を作らないとお金が入らない。これは会社員の感覚からするとキツイ。売れないとお金も入らないので、創作している最中はお金の心配が一番強い。それと孤独。漫画家にインタビューすると、課題としてこの二つがすごく出てきます。
「00:00 Studio」には、メジャーな出版社で作品を発表するには至らない若い作家も大勢参加しています。孤独と闘いながら必死で創作に取り組む作家を、ライブ配信の視聴者が「がんばってください」と投げ銭で支援できる仕組みを整えました。
町蔵や鉄男を応援したい。町蔵や鉄男の新作が、人々の心を揺り動かす瞬間を目撃したい。そんな思いです。
栗俣:漫画家はすごく孤独な仕事で、特に今はアシスタントさんが遠方にいて、背景を一人で描かれている方も多い。こういう場で読者と接することができるのは、精神的にもすごく安定しますよね。
いろんな人がその作品を好きだという気持ちが、いろんな方向から集まる。誰か読者の気持ちをコントロールしてくれる主役はいないのに、読者の気持ちがあちこちから重なって漫画をヒットに結びつける。多くの人が自分にとって最善の行動をとった結果が、大きな事象になる。それを起こすためのツールを作るのが、けんすうさん。
けんすう:昔から僕が作るサービスは、コミュニティサービスなんです。自分は主人公ではなくて、たまに出て行っても「こいつ誰だ」ぐらいの扱いをされる。うまくいっているサービスほどそうなんですよ。
自分の美学的にも、サービスをやってる人が主役でないほうが好きですね。例えばFacebookはザッカーバーグが主役ですが、Twitterはグダグダで、トップがコロコロ変わっている。共同創業者の一人は、公式の創業史から存在を消されていたりするんですよ。ジャック・ドーシーもCEO就任の翌年に追放され、次の社長も追放されている。このあたりは『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』(ニック・ビルトン著)に描かれているのですが、これは僕がとても好きな本なんです。
結局、Twitterはユーザーが主役です。誰が経営者をやっていようが、Twitterというサービスの価値は変わっていないところにトキメキを感じております。
フランス革命も、誰か一人が起こしたわけではないので、主人公の名前を挙げられない。明治維新も同じです。時代の波や、みんなが考えた思想のほうが主役だというところが好きですね。
栗俣:今のお話と『G戦場ヘヴンズドア』はメチャクチャつながりますね。