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2022.10.12

「うつ」は非起業家の2倍? 起業家のメンタルヘルスを考える|元アマゾン産業医の相談室 #8

元アマゾン産業医の相談室 #8


起業家のメンタルヘルスの現状


今回の執筆の準備として、起業家のメンタルヘルスに関する文献や調査を調べてみました。米国では1990年代後半のシリコンバレーでの起業家の輩出に伴い、起業家のメンタルに関する研究が行われるようになりました。

筆者が調べた限りでは、国内において起業家に対する横断的な調査研究は見つかりませんでした。もしご存じの方はいたら、教えていただけると助かります。ここでは、起業家のメンタルヘルスに関する米国からの報告(2018年)を紹介します。

起業家の約5割はメンタルヘルス疾患を経験している


生涯一度はメンタルヘルス疾患(うつ病、ADHD、不安障害、物質依存、双極性障害のいずれか一つ以上)の経験があると回答した割合は49%でした。これは比較対象である非起業家の32%に比べて高い割合です。

グラフ4:メンタルヘルス疾患を経験したことがあると回答した割合(全体)

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起業家はメンタルヘルス疾患を抱えている割合が高い


うつ病は約2倍、ADHDは約6倍、物質(アルコール薬物)依存は約3倍、双極性障害は11倍と、非起業者に比べ、これまでにメンタルヘルス疾患を抱えていると回答した割合が高いことがわかりました。

グラフ5:メンタルヘルス疾患を経験したことがあると回答した割合(疾患別の比較)

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起業家の約3割は複数のメンタルヘルス疾患を経験している


起業家の32%は、これまでに2つ以上のメンタルヘルス疾患に罹患しており、3つ以上の割合は18%でした。非起業家では16%(2つ以上)と3%(3つ以上)であったので、起業家が複数のメンタルヘルス疾患に罹患したと回答した割合が高いことがうかがえます。

グラフ6:複数のメンタルヘルス疾患を経験したことがあると回答した割合



起業家の約7割はメンタルヘルスの問題を抱えている


起業家の72%は、自分もしくは家族のメンタルヘルスの問題を抱えていました。その内訳は、自分自身が49%、家族(両親・子供)が23%でした。なお非起業家では48%でした(内訳 本人自身32%、家族16%)だったので、起業家がメンタルヘルスの問題を抱えると回答した割合が高いことがわかります。

グラフ7:自分もしくは家族がメンタルヘルス疾患の問題を抱えていると回答した割合



以上をまとめてみると、米国での研究から起業家は、1. メンタルヘルス疾患への既往があると回答した者が多い、2. これまで複数のメンタルヘルス疾患に罹患している者が多い、3. 本人自身のみならず家族を含めたメンタルヘルスの問題を抱えている者が多い、という傾向が認められています。

これは起業家のメンタルヘルスのリスクが非起業家に比べて高いことを示唆する情報であり、起業家に対するメンタルヘルス支援の重要性が求められることになります。

社会文化の差はあるものの、国内でも同様の傾向があることが予想され、起業家へのメンタルヘルス支援への関心が高まることが期待されます。なお、この報告は、これまでのメンタルヘルス疾患の罹患経験を起業家と非起業家の間で比較したもので、起業とメンタルヘルス疾患発生の因果関係を明らかにしたものではありません。


「休み」と「遊び」は区別すべき? 起業家のメンタルヘルスを考える|元アマゾン産業医の相談室 #9 に続く

文=鈴木英孝 編集=石井節子

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