ビジネス

2022.09.13

ブルーボトル日本展開の裏側 根強いファンはなぜ生まれたのか

井川沙紀(撮影=林孝典)


「howは私が考える」


私がよくジェームスに伝えていたのは「howは私が考えるから、whatを教えてほしい」ということです。

一例を挙げると、彼が「コーヒーの奥深さをもっと伝えたいから、ミルクドリンクはメニューからなくそう」とアイデアを出したことがありました。ですが、日本ではミルクドリンクの売り上げ構成比が非常に高く、実行に移すのは難しいのが実情でした。

そこで、関西一号店である京都カフェに、予約制のラウンジを設けたんです。コーヒーの奥深さと向き合えるコーヒーコースの提供を始めました。お客さまにも好評で、ジェームスの実現したいことも叶う店舗になりました。

彼がやりたいwhatだけを提示してもらい、howは委ねてもらうことで、より尖ったアイデアをもらえます。あとはその尖りをキープしながら、どこまで実現できるかが、私の腕の見せ所でした。

そしてジェームスの想いを深く理解しているからこそ、期待値を超えるhowを見つけることもできる。ブルーボトルの専用自動販売機や、ファッションデザイナーのNIGOさんとのコラボレーションなど、本国より先行する取り組みが増え、より仕事が楽しくなっていきましたね。

井川沙紀

──外資系の場合、本国の意向が強く裁量権がないケースもあります。

たしかに、ブルーボトルは日本の裁量権が大きく、自由度の高い経営環境が整っていたといえます。ですが、売り上げが出ていなければ事業として存続できず、本国に話を聞いてもらうこともできません。

日本が独自に実践していることが、結果に結びついていると示せれば、発言力が高まり、howの自由度が広がっていくでしょう。

──井川さんご自身の、チームに想いを浸透させるメソッドを教えてください。

携わって3年経った頃から、メンバーに「沙紀さんはどう思いますか?」と、私の意見を求められることが増えてきました。

私は、自分自身で考えないと、人は育たないと思っています。だから、考えるきっかけや裁量を与えるようにしているんです。ブルーボトルでは、味以外の部分に細かいマニュアルはなく、カフェによってコンセプトも違う。自分たちがお客さまのことを考え抜き、工夫し、成長してもらいたい。「こうしなさい」ではなく「どう思う?」「なぜそう思った?」というコミュニケーションを取っています。

アルバイトも社員も、入社時に必ず2日間の研修を受けます。そこで、ブルーボトルの歴史や想い、マインドセット、人間関係の構築方法などをインストールしてもらうんです。初期はジェームスと交流する機会を設けることもしました。こうした工夫によって、自分で考えるという風土が醸成できています。

ただ、日本で独自の文化を作り上げることが許されるのは、創業者との信頼関係があってこそです。関係構築には時間がかかりますが、本質を理解し、求められていることをきちんとすり合わせたうえで、結果を積み重ねていくことが大事です。

文=井澤梓 編集=露原直人

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