では、若い時に「つくる」経験を積むことがなぜ大切なのか? そして、若い時の「つくる」経験によって何が得られるのか? 僕は、具体的には次の3つだと考えている。
1. アイデアを形にすることの大切さを理解する
「アイデアは実行されなければ意味がない」とスティーブ・ジョブズ氏は言った。
どんなに優れたアイデアも、形がなければ見えもしないし使えもしない。形にすることで初めて、見たり使ったり、何かを実行できるようになる。実行することによって、具体的にそのアイデアの可能性と課題がはっきりし、現実になっていく。実行されなければアイデアはただの妄想で終わる。
2. センスを研ぎ澄ます
アイデアを実行し形にすると、「完成度」というものが見えてくる。
デジタルツールのお陰で「つくる」ことへのハードルは下がり、今や誰もが簡易にいろいろなモノを作れる。写真や動画・映像といったコンテンツから、プロダクトのデザインまで。また最近ではウェブサイトやアプリも、ある程度のクオリティのものであれば誰もが作れるようになった。だがそれだけでは、他と一緒だ。
良いアイデアに基づき、技術をつけ、作り込んでモノの質を上げることが、差別化につながる。誰もがデザインできるようになった現在ではなおさら、完成度がものを言う。
僕が「Craftsmanship」を「技術」ではなく「技巧」と訳すのも、そこに完成度や質という意味が含まるからだ。質を見極めるにはセンスが必要で、それは作り込んでいく過程で身に付く。それを英語では「Craftsmanship」という。そしてセンスというのは語学力と同じように、経験を積んでからでは身につけにくい。
3. 「プロダクトの時代」に適応する
いわゆるマーケティングやマス広告の効果がなくなってきた今、ビジネスの世界は「ブランド」の時代から「プロダクト」の時代へ突入している。これは、ニューヨーク大学教授のスコット・ガロウェイ氏が著書「ポストコロナ」で唱えている。一昔前まではプロダクトの質がそこそこでもマーケティングや広告の力である程度商売が成り立ってきたが、もはやプロダクトそのものでの勝負を迫られる時代になっている。
時価総額ランキングの上位に位置する各会社のプロダクトへのこだわりは強い。アップルは、競合他社のサムスンに比べ、広告に費やす予算は4分の1に過ぎない。その分をプロダクトに投じている。かつて、アマゾンの創設者のジェフ・ベゾス氏は、「広告は悪い商品につける絆創膏だ」とも言っていた。
作り手経営者は「プロダクトの時代」に最も適していると言えるだろう。この記事を読んでいる読者の方が経営者を目指してはいないとしても、「つくる」経験によって得た強みは、多くの業界で一生武器になる。
20代の頃の意識
20代の頃は、正直自分に自信がなかった。
英語がそんなに達者ではない外国人が、ニューヨークのホワイトカラーの社会の中で働くには、言葉で勝負するにはハードルが高かった。つくることが言葉の代わりの武器となり、周りや業界の中で少しずつ認められるきっかけになった。作ったものが言葉を超えた実力の証拠となったからだ。
20代の方達にはとにかく、これまでなかったものを生じさせ、ある形にすること、そして、それをつくるのに必要な技術を身につけることを、強くおすすめする。