いくつかの逸話を紹介しよう。
今では順調なAirbnbだが、創業して間もなくは事業が伸び悩んでいた。まったくの他人の家に泊まるというコンセプトへのハードルがまだ高かったからだろう。そんな中チェスキー氏は、在学中に学んだデザインの経験に基づき、ある仮説を立てた。
当初、物件紹介に使われていた写真はオーナー自身が撮ったものだったが、プロが撮ればもっと見栄えが良くなり、他人の家を借りてくれる人も増えるだろう、と。彼はデザインを学んだ経験を通して、「見せ方」がいかに大切かを熟知していたのだ。
Airbnbの共同創設者、現CEOのブライアン・チェスキー(Getty Images)
ただ、オーナーの負担でプロの写真家への発注をを強要するのは無理だと感じ、Airbnbが写真家を無料で派遣するサービスを提供することにした。それが当たり、事業が軌道に乗ったという。
Instagram創業者の一人シストロム氏は、母親が地元の広告代理店に勤務していたこともあり、子どもの頃からそのオフィスに出入りして、学生時代の夏休みにはアルバイトでデザインのアシスタントもしていた。その影響か、エンジニアでありながらデザインへのこだわりは強く、以前使われていたレトロなアプリアイコンは彼自身が、角の丸みなど、何百パターンも作ってデザインをした。
Nike創設者フィル・ナイト氏の後継者であるパーカー氏は、24歳の時にフットウェアデザイナーとしてNike社に入社。20代の時はデザイナーとして研究開発を担当し、32歳という若さでその部署のバイスプレジデントになった後、2006年にはNikeのCEOにまで登り詰めた。
13年間の彼のリーダーシップの下でNikeの売上は倍以上に成長し、株価も8倍にも跳ね上がった。その裏には、デザイナー出身であるパーカー氏の、作り手視点でモノづくりにこだわる経営スタイルがあったといわれている。
引用:Fortune
さて、毎年米Fortune誌が発表する米企業の時価総額ランキングを見ると、トップ5はアップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、アマゾン、テスラが並ぶ。このうち、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏、アルファベットのサンダー・ピチャイ氏、テスラのイーロン・マスク氏は各社の現経営責任者だが、皆若い時に「作り手」だった過去を持っているか、もしくはモノづくりに限りなく近い人物達だ。
つまり「作り手経営者」が牽引している企業の時価総額が、圧倒的に上がっているといえる。
若い時に「つくる」ことの3つの重要性
日本語では「作る、造る、創る」と複数の漢字を当てることができるように、「つくる」という言葉は幅広い意味をもつ。僕がここで言う、キャリアの中での「つくる」に含まれる要素は、主に以下の2つだ。
まず、これまでなかったものを生じさせ、ある形にすること。そして、それをつくるのに必要な技術を持ち合わせること。
これが「つくる」ことの最もシンプルな定義だ。「つくる=(狭義の)デザイン」と唱えたいわけではない。
僕個人の場合の「技巧」は、ブランドのメッセージを目に見える形や映像にすることだった。だが人によっては「文章」や「コピーライティング」かもしれないし、「戦略を書く」ことかもしれない。戦略も一見抽象的なものだが、「戦略を書く」ことも「つくる」うちに入る。それには練習と訓練が必要で、「Craftsmanship(技巧力)」が最終的なクオリティにつながるからだ。