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2022.08.18

ベストセラー教科書の無料化・オープンソース化が教育出版を変える

Getty Images

先に発表された契約で、ライス大学のオープン教育リソースイニシアチブであるOpenStax(オープンスタックス)が、ジョン・マクマリーによる有機化学の教科書の第10版を出版することになった。

大したことではないように聞こえるかもしれないが、これは大事件だ。

この教科書の取引による、教科書やその他の教育教材の制作方法や使われ方が変わるかもしれないのだ。さらには出版や教育、そして大学への進学費用にも大きな影響を与える可能性もある。

なぜならオープン教育リソース(OER)は無料だからだ。しかも無料なだけでなくオープンソースであるため、ライセンスや許可なしに定期的に更新や改訂することができる。OER書籍やその他の教材は新しいものではない。教育資源を無償化するという考えは以前から存在している。実際、OpenStax自身には、すでに57冊の無料の教科書があり、年間600万人以上の学生に利用されている。

今回の契約の特徴は、この教科書がすでにベストセラーで、有機化学のマーケットリーダーであることだ。そんな教科書が誰にとっても、無料になろうとしている。この契約で、出版社のCengage(センゲージ)はその権利と収入を手放し、著者であるマクマリーはかなりのロイヤリティを手放すことになる。

もちろんそこには理由はある。マクマリーの理由はは遺産と家族だ。今回の取引発表の中でマクマリーは、嚢胞性線維症と闘った末に2019年に亡くなった息子ピーターへの賛辞として、新版を無料にすることに心を動かされたと述べている。Cengageの理由は「学生に質の高い学習への手頃なアクセスを提供するというコミットメント」というが、このれは疑う余地がないものだろう。

今回の動きはOpenStax、そしてより一般的なOERにとって記念碑的なことだ。

OpenStaxの創設者でディレクターのリチャード・バラニークは、この取引を「分岐点」と表現し、「OERは常に本当に良いアイデアだと考えられてきましたが、主流になることはありませんでした」と語る。世界中で100万人以上の学生に使われているベストセラーの教科書を獲得したことで、それが実現したのだ。「私たちは常に著者を選び、自分たちをマーケットリーダーに育てようと努力してきました。しかし今、マーケットリーダーが私たちのところに訪れてきてくれているのです」とバラニークはいう。

OpenStaxは「この動きを主流にすることで教育分野における出版のあり方を変革し、質を高め、コストを下げ、学習をより良いものにするという明確な目的のために設立されました」とバラニークは述べた。そして、無料の書籍や教材は「高等教育におけるアクセスの危機、つまり教科書や学習教材があまりにも高価になったために、学生が購入しないことを決め学業成績が悪くなるという事実に対処する」ことになると、彼は続ける。

無料の教科書の良さもさることながらCengage / McMurry / OpenStaxの取引は、アナリストがインターネットの出現以来、崩壊の危機に瀕していると分析している教育出版における大きな転換を予兆するものである可能性もある。
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翻訳=上西 雄太

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