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2022.09.01

人的資本へ注力と言われても・・・人の力を開放する必須の着想

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株主・投資家は何を見ているのか?


人的資本の重要性が高まる中、いま世界的に議論されているのが「人的資本の情報開示」です。これまでは主に、企業の内部で活用していた人材に関する情報を、株主・投資家をはじめとする多様なステークホルダーが情報開示を求めているのです。

ひと言に「人的資本の情報」といっても多種多様な要素で構成されています。例えば、国際規格ISO30414では、人的資本の情報を大きく11要素で整理しています(下図)。

人的資本の要素
出所:リクルート「人的資本の潮流と論点2022」*ISO30414:国際標準化機構(ISO)が2018年に公表した「ヒューマンリソースマネジメント 内部および外部人的資本報告の指針」

また、これら人的資本の情報は「リスク管理」と「価値向上」の2つの観点に分けて整理することが可能です。

●リスク管理の観点……「コンプライアンス・倫理」「組織の安全性・健全性」「多様性」など
●価値向上の観点……「組織文化(エンゲージメントなど)」「スキル・能力」「リーダーシップ」など

たとえば、多様性への配慮や職場の安全性への取組みがない企業は、リスク管理が万全ではないと判断されて、投資対象として選ばれづらくなっていくでしょう。

「リスク管理」の観点が網羅されている上で必要なのは、「価値向上」の観点で、双方とも取り入れることが大切です。人的資本経営とは、人材に投資をして、その価値を高めることによって企業の中長期的な成長につなげるマネジメントです。

単に人材を管理するのではなく、いかに人材に投資をしていて、どのように活用しているがポイントになります。スキルや能力を高めるためにどのような投資を行っているか、マネジメント層のリーダーシップをどのように鍛えているか、何より一人ひとりの社員はエンゲージメント高く働いているか。今後は株主や投資家も、こういった価値向上の観点に注視するようになっていくでしょう。


▼働く人の視点───私たちは何をすべき?───


企業の人的資本に注目が集まる中、われわれ働く個人は何を意識していけばいいでしょうか。まずやるべきことは「今の職場・仕事において自らを活かせているか」について考えることです。試しに以下の3つの質問に回答してみてください。

1. 自分自身の仕事に関する知識やスキル・経験を言語化して他者に伝えることができる

2. 今の部署や職場は、自身の知識やスキル・経験を活用できる最適な配置と感じている

3. いま任されている仕事は、自身の知識やスキル・経験を活用するうえで最適な内容と感じている


実は我々の調査では、上記に「あてはまる」と回答した割合は約3割~4割程度でした。多くの人が、自分のスキル・経験の言語化や、職場・仕事とのフィット感に自信を持てていない状態です。昨今、「キャリア自律」や「学び直し」の必要性が叫ばれていますが、まず取り組むべき事は、今の自分自身の状況を見つめ、課題を感じるのであれば企業と健全に対話していくことです。


われわれ一人ひとりがこの社会において大切な人的資本であることを自覚し、企業と一緒になってその価値を高めていく時代なのです。


最大のステークホルダーは従業員


人的資本のテーマは、「投資家への情報開示」が議論になりがちです。しかし、やはり大切なのは「自社で働く人々」です。既存の従業員はもちろん、将来入社してくる人たちこそが最大のステークホルダーなのではないでしょうか。

打ち合わせする社員
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企業はイノベーションの創出によって発展し、生き続けます。イノベーションの種となるアイディアはやはり人が生み出すもの。人々が生き生きと働き、挑戦できる環境を用意できなければ、未来志向のイノベーションは生まれません。人材をいかに引き付け、最大限活用し、イノベーション生み出して企業価値につなげていけるか。それが人的資本経営の最大のポイントではないかと思います。
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寄稿=津田 郁(リクルート)

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