実はどれも海外では通じにくい和製英語だ。リスク回避を表す「リスクヘッジ」は海外では使われない表現であり、英語がネイティブの友人によると「risk aversion(aversionは「嫌悪」といった意味)」が正しい言葉だという。また、「フラット」は、土地の形状や物質の構造にデコボコがないとか、だるい、平凡な、といったニュアンスでは使っても、考え方や視点に格差がないといった意味で使うことはまずないそうだ。また、顧客の意見や考えについて聞くことを示す「ヒアリング」も、海外では「listen to client」という。「hear」は「無意識に耳に入ってくる」というニュアンスがあるため、意識的に聞く姿勢を示す「listen」が正しいのである。
なぜ、日本のビジネスの会話ではこんなにも「横文字」が多いのか。全て日本語を使って話した方がより具体的に説明できるにもかかわらずだ。
筆者は日本で生まれ育ったが、高校まで学校では韓国語で会話し、学士課程では半分以上の授業が英語または韓国語、修士課程はヨーロッパのビジネススクールに進学したため授業は全て英語だった。日本語での議論に慣れていないことが原因で、社会人2年目になっても横文字の多い会話についていけないのかと、筆者自身長い間苦しんできた。
そこで、大阪大学で10年以上教壇に立った名物講師で、現在は大阪芸術大学客員准教授の法学者、谷口真由美氏に筆者の悩みをぶつけてみた。
谷口氏はTBS日曜朝の報道番組「サンデーモーニング」の辛口コメンテーターとしてもおなじみ。ちなみに『現代用語の基礎知識』2022年版の表紙には彼女のイラストが使われている(書籍内に「2021年のキーパーソン」として「谷口真由美」の項目あり)。
「正直、横文字が多すぎる会話は理解しにくいです」。谷口氏はビジネスで使われる横文字について、「横文字はな、人をわかった気にさせてしまう魔法の言葉やねん」と、おなじみのあの、軽妙でユーモラスな語り口で話し始めた。
法学者 谷口真由美氏
その横文字、たぶん誰もわかってへんで
なぜ、ビジネスの会話で多くの人は横文字を使うのか。それはズバリ、「賢く聞こえるから」です。私がラグビー協会にいた頃、衝撃的な言葉から始まった会議があります。
「今日のミーティングでは、このプロジェクトのフィージビリティをコンピテンシープランまでみんなでディスカッションしたいです」
私はひっくり返りました。心の中で、「いま、日本語でお話しされていましたかね?」と思いました。 それに対して周囲も「アグリーです」と言っていて、もう一度ひっくり返りました。さすがにこれでは会議で何を議論すべきか全く理解できなかったので、主催者に具体的な説明を求めたのを記憶しています。
周囲は理解しているものだと思っていたのですが、会議が終わった後に数人が「谷口さんありがとうございました。私もあの会議が横文字だらけで、全く理解できませんでした」と伝えてきました。
「みんなわかっていないんかい! やったらその場で質問してほしいわぁ」と正直思いましたね。でも、この「知ったふりをしてその場を過ごす」というのが、会話に横文字が増え続ける原因であり、深刻な課題に繋がっているとわかりました。
だって、誰も会議の内容を理解できていないまま議論を進めているんですよ。