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2022.08.10

頼まれることはできること。肩書だって「ソウゾウ」できる丨萩原なつ子

社会学者の萩原なつ子


この決断に対して、周りからは「環境やジェンダーの分野をやっていては、研究者としては認められないよ」とよく言われました。当時としては環境保全よりも経済成長が優先されていた時代だし、男女平等はなかなか受け入れられないからです。でも私には「これがやりたい」「これが大事だと思う」という信念がありました。

そんななか、大学院で師事した原ひろ子先生(お茶の水女子大学名誉教授)が「10年後はあなたの時代よ」という言葉を掛けてくれたんです。そういう応援してくれて信頼できる大人との出会いがあり、ここまで来ることができました。



40年間一生懸命やってきて、2015年に国連で採択されたSDGsに「すべての人々の人権を実現し、ジェンダー平等とすべての女性のエンパワーメントを達成することを目指す(前文)」と明記されたのは嬉しかったです。「ジェンダー平等なくして17目標の達成はなし」ですよ。「やっと来たか」という思いですね。

──ジェンダーに関しては、ご家族もとても柔軟な考え方を持っていらっしゃったとお聞きしました。

そうなんです。戦争経験のある父は、戦後書き始めた日記の1行目に「これからは男女平等の社会だ」と書いていました。さらに、明治生まれの父方の祖父は教員をしていましたが、4人の子どもの育児日誌を書いていたような人だったそうです。祖母も教員でしたし、母も仕事をしていました。「女だから・男だから」ではなく、「なつ子は何がしたいのか」と私のやりたいことを尊重してくれた、リベラルな家庭でしたね。

「何か変じゃない?」と思える20代


──当時に比べると「環境」や「ジェンダー」に関する理解は少しずつ進んでいますが、現状の課題はどのようなところにありますか。

まず環境についてですが、スタートアップなど若い方たちがたくさんこの領域に入ってきてくれていますよね。とても良い流れだと思います。

私自身も社会学部生のとき、ペットボトルのゴミ問題についてレポートを書きました。当時20代で、1982年のころの話です。ただ、このレポートは評価されず、教授に理由を聞くと、「ゴミ問題には発展しない」と言われました。

歴史を紐解くと、環境問題に関心を寄せ始めるのはみんな20代のときなんです。「アースデイ」(地球の日)が生まれたのも、1970年4月22日にスタンフォード大学の学生が深刻化する環境破壊に対して起こした運動が起源。若いころに「なんか変だ」と思った人たちが行動して、今につながっているんです。

だからこそ今の10代、20代の方たちは、大人たちがやっていることや当たり前だと思われていることに対して「それはおかしい」「変だよ」と思ったら、思い切って発信してほしい。そうした行動が未来をつくっていきます。
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文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=山田大輔

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