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2022.08.03 17:00

過熱する「Human Flourishing」研究「人間の潜在性に投資せよ」

ニレミア・コレクティブ共同創業者の奥本直子(写真右)とトランスフォーマティブ・テクノロ ジー共同創設者のニコル・ブラッドフォード(写真左)

ニレミア・コレクティブ共同創業者の奥本直子(写真右)とトランスフォーマティブ・テクノロ ジー共同創設者のニコル・ブラッドフォード(写真左)

人間の潜在的可能性と持続的幸福感を高める「Human Flourishing」の考え方。米国を中心に、テクノロジー、ビジネス、アカデミアの協働が加速している。AIが社会に実装され、人間にしかない「創造性(クリエイティビティ)」がかつてないほど重要になっている。Forbes JAPAN9月号(7月25日発売号)の特集「創造性に投資せよ」の記事を再編集し、抜粋掲載する。


「創造性とは、破壊的イノベーションであり、既存のものをまったく新しいものに変えることです。脳のニューロン間で電気信号が駆け巡る様子と似ています。そのためには、これまで誰もやらなかったような、リスクのある試みをする必要があります。テクノロジーは、その発露を助ける環境を整えることができると思います」

そう話すのは、トランスフォーマティブ・テクノロジーの共同創設者兼エグゼクティブ・ディレクターで、投資会社ニレミア・コレクティブの共同創業者でもあるニコル・ブラッドフォードだ。

トランスフォーマティブ・テクノロジーとは、メンタルヘルス、感情のウェルビーイング、人間の持続的幸福感をサポートする医学や科学に裏付けされたテクノロジーのことで、起業家で心理学者のジェフリー・マーティンによって2007年に初めて提唱されたとされている。ブラッドフォードは、同分野を推進するために14年にマーティンとともにトランスフォーマティブ・テクノロジー(NPO)を設立。

定期的なカンファレンスを行い、研究者間のコミュニケーションの場を提供するなど、有識者、投資家、起業家、企業スポンサーたちをつなげるエコシステムの役割を担い、現在は世界72カ国450都市に9000人のメンバーと1200人の起業家が参画するコミュニティ(共同体)に成長している。

スタンフォード大学やシンギュラリティ大学で講師も務めるブラッドフォード自身も、ディズニー・インタラクティブや、Vivendi Universal Gameといったゲーム業界でのバックグラウンドをもつ。エグゼクティブとして中国へ赴任していた際、休暇で訪れたアジア各国でのリトリート体験が、ストレスの多かった仕事と生活への考え方を一変させたという。

「テクノロジー、心理学、脳科学にポジティブな関連性を感じ、アメリカに戻ってトランスフォーマティブ・テクノロジーを立ち上げました。目的は、人々が精神的、感情的健康を保ち、人生に目的をもち、パフォーマンスをあげることです。テクノロジーの発展は指数関数的カーブを描くものの、人間がよりよい自分になるためのラーニングカーブは直線的です。よい両親のもとに生まれ、よい教育を受け、よい上司のもとで働く。すべての人が自分の状態をよりよくし、幸せになることはとても難しい。そのギャップがいちばんの課題であり、挑戦です」(ブラッドフォード)

ニレミア・コレクティブはブラッドフォードとWiL、Mistletoe、Z Corp(ソフトバンクグループ)などで投資経験にある奥本直子によって2021年に創業された、ウェルビーイング・テクノロジーに特化したベンチャーファンドだ。投資活動を通した産業の活性化と社会的インパクトを図る。

奥本によると、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響による心理的不安や、社会的立場よりも自身の存在意義や幸福感を重視するZ世代の社会への参画を背景に急成長している分野であり、現在の市場規模は約750兆円にのぼるという。

「古代から、人は子どもに健康で幸せになってほしいという気持ちで数万年を生き延び、社会やテクノロジーを発展させてきました。マインドセットを変え、コミュニティをつくり、我々がムーブメントを興すことで、よりよい社会をつくっていきたいです」(奥本)。
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文=岩坪文子、荒川未緒 写真=マーク・オリヴィエ・ル・ブラン

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