出雲さんは起業後に取材を受け、よくこう聞かれたといいます。
なぜ起業という大胆な道を選択したのか。起業時にはどんなビジネスプランを持っていたのか。
しかし、記事はなっていたものの、実は答えに困っていたのだ、と私のインタビューで告白してくれました。
「なぜなら、大胆な決断をした覚えもないし、ビジネスプランなんてものもなかったからです。私は、バングラデシュで見た光景が、ただただ本当にショックだったんです。問題は飢餓ではないじゃないか、と。だから、なんとかしたいと思った。それだけなんです」
ベンチャーやアントレプレナーという言葉も知らなかった。だから、ビジネスというものを調べて準備をして起業をし、プランを練って今がある、そんなキレイな道のりではなかった。
その逆だったのです。
「これをやればうまくいく、と思ってスタートしたい人は多い。でも、私はミドリムシで成功すると思ってスタートしたわけではないです。大学卒業後に就職したメガバンクと、ミドリムシベンチャー、どっちがいいか比較検討したら、ミドリムシが成功するとは思えないでしょう」
しかし、そこにこそ意味がある、と出雲さんは語ります。
「いける」と思って始めると、うまくいかない
「検討したり考えたりするのは、やらない理由をあれこれ探していくことなんです。やらないほうがいいと納得させるプロセスのことです。だから、これでは新しいことは絶対にできない。考えるのは自由ですが、考えたところで思うようにはならないんです。プラン通りにもならない。でも、想定しなかったことも起きる。いろんな人が助けてくれました。動き出した人を助けてくれる人は、世の中にたくさんいます。結局、やるかやらないか、なんです。でも、やってみたら、なんとかなるんです」
大事なことは、何より踏み出してみること。あれやこれやと理屈を組み合わせ、うまくいくと思えることは、むしろ危険だといいます。
「世の中、逆だと思うんですよ。いけると思って始めると、ほとんどうまくいかない。理由はシンプルで、みんなが『いける』と思うことは、すごく競争が厳しいからです。ミドリムシがなぜうまくいったかというと、みんなが『いけない』と思ったからです。あきらめないでやり続ける人は本当に少ないんです」
出雲さんは、ミドリムシ事業をやれば成功する、という理由で頑張ったわけではありません。そこがスタートではなかった。