経済・社会

2022.07.29 10:30

2050年までに実現不可能 サステナビリティを取り巻く不都合な真実


ホルシムのサステナビリティ計画


Holcim(ホルシム)はそうは考えていないかもしれない。スイスに本社を置く同社は、世界有数のセメントメーカーだ。2020年のセメント生産量は2億8000万トンを超える。同社は年次報告書の中で、「科学的根拠に基づく目標」イニシアチブによって検証された2050年までのネットゼロ目標を宣伝している。

同社は、セメント製品に含まれるクリンカーを代替鉱物成分に置き換えることで二酸化炭素排出量を大幅に削減した。建設・解体廃材と焼成粘土が主な代替物だ。また、バイオマス由来の燃料の利用を拡大し、窯を極めて高温に加熱することで発生する二酸化炭素を削減した。

最終的にセメント生産でネットゼロを達成するためには、費用対効果の高い炭素の回収と貯留を大規模に行うことが必要だ。二酸化炭素回収とは、生産工程で排出される二酸化炭素を回収し、大気中に放出されないように炭素を貯蔵することだ。これは、セメント産業でネットゼロを達成するための唯一の現実的な方法である。ホルシムは現在、20以上の炭素回収プロジェクトを試験的に実施している。同社は二酸化炭素回収を2030年に大規模に開始し、そこから段階的に拡大できると予測している。

二酸化炭素回収の議論


このように、セメント業界にとって重要なことは、費用対効果の高い二酸化炭素回収は夢物語なのか、それともこれによって革新することは可能なのか、ということだ。

年間1ギガトン以上の二酸化炭素を大量に回収するためには「全く新しい二酸化炭素回収・輸送・貯蔵産業を立ち上げる必要があり、毎年、現在の米国における原油生産量の1.3〜2.4倍を処理しなければならない。原油生産産業は160年以上かけて、何兆ドルもかけて作られた」とスミルの分析する。

要するに、2050年までにネットゼロにすることは個々の企業にとってはおそらく不可能であり、セメント産業全体にとっても不可能に近いということだ。

企業の持続可能性報告書を読む素人は、楽観的な気持ちになるかもしれない。しかし、マクロな視点でサステナビリティを考える科学者は、違う視点に行き着く。スミルの不都合な真実は、社会がいくら投資をしても2050年までにサステナビリティの目標を達成することは不可能であるということだ。

翻訳=溝口慈子

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