経済・社会

2022.07.29 10:30

2050年までに実現不可能 サステナビリティを取り巻く不都合な真実

安井克至

博学者のスミルは、化石燃料への依存から脱却するにはおそらく100年以上かかると断言する

『How the World Really Works(世界はどう動いているか)』という本がある。「我々は化石燃料文明であり、その技術や科学の進歩、生活の質、繁栄は大量の化石炭素の燃焼に依存している」と論じている。著者で博学者バーツラフ・スミルは、化石燃料への依存から脱却するには最低でも数十年、おそらく100年以上かかると断言している。この結論は、炭素系燃料に依存する産業、現代生活におけるその産業の重要性、そしてこれらの産業が生み出す大量の二酸化炭素についての科学的な検証に基づいている。

スミルはテクノ・オプティミズム(技術楽観主義、新技術の発明が問題を解決すると考えること)を軽蔑している。しかし「地球温暖化問題を直ちに解決しなければ、世界の大部分は人が住めなくなる」という考え方も同様に軽蔑している。スミルは、地球温暖化が事実でないとか、二酸化炭素排出削減の努力が必要でないといっているわけではなく、その努力を信じている。しかし、複雑なシステムに関する予測はほとんど意味がないと主張している。

現代文明の四本柱


材料の必要不可欠性、偏在性そして需要に関して、スミルはアンモニア(現代の肥料に使われている)、プラスチック、鉄、セメントが現代文明に不可欠だと主張している。この4つの材料の世界生産は全二酸化炭素排出量の25%を占めている。これらの材料に代わる大量かつ容易に展開可能なものはない。

ここからは、セメント業界を例にスミルの主張を検証してみたい。セメントは都市や交通のインフラを支えるために不可欠な材料だ。セメント製造のエネルギー源は主に石炭粉、石油コークス、重油などとなる。セメントはコンクリートに欠かせない材料だ。石灰岩、粘土、シェール(頁岩)、さまざまな廃棄物を粉砕し、1450度以上に加熱して製造される。加熱は長さ100メートル以上の窯で行われる。この高温焼成によりクリンカー(石灰岩とアルミノケイ酸塩の融解物)が作られ、それを粉砕して粉状のセメントが作られる。

2021年のセメント生産量は44億トンと推定されている。スミルによると、セメント産業が化石燃料への依存を解消し、二酸化炭素の大きな貢献者でなくなる可能性は極めて低いという。果たしてそうだろうか?
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翻訳=溝口慈子

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