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2022.07.21 10:00

政策起業家元年へ。社会課題を構造から変えるさまざまな非営利セクターの進化

「新しい社会構築」、「社会課題解決」の中心的な担い手である非営利セクター。インクルーシブ・キャピタリズムの実現に向け、重要な役割を担う同業界の動きとは。


2022年2月25日、政府は、コロナ禍で顕在化した孤独・孤立の問題に対応するため、関係省庁や自治体、NPO法人、企業などが参画し、NPOが中心となる「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」を発足させた。

この起点となったのが、NPO法人あなたのいばしょ理事長の大空幸星による政策提言だ。大空による20年12月に行った政府への孤独対策の提言がきっかけとなり、翌月には孤独対策の議員勉強会が立ち上がり、21年には孤独・孤立対策担当大臣が生まれた。

「我々が提言するまでは、孤独・孤立は個人の問題とされていた。孤独・孤立対策担当大臣ができたとき、『政策的なIPO』を成し遂げた」

大空は、企業が資本市場に上場するIPO(新規株式公開)を引き合いに出しながら、担当大臣の設置、法律の策定、内閣の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)への掲載を非営利セクターの「IPO」と位置付けている。

「民間から政策をつくっていく、変えていくということがいまほど重要な時代はない」

訪問型病児保育などの子育て事業を手がけながら政策立案にかかわってきた認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹はそう語る。社会課題が多様化・複雑化し、解決のための手段であるテクノロジーの進化もある。駒崎がいま、日本で広めようとしているのが「政策起業家」という概念だ。

政策起業家とは、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブによると、「公のための問題意識のもと、専門知・現場知・新しい視点をもって課題の政策アジェンダ化に尽力し、その政策の実装に影響力を与える」民間のリーダーだ。

なぜ、駒崎はこの概念を広めようとしているのか。社会課題の解決に取り組む人たちの間で知られる「溺れる赤ん坊のメタファー」の寓話がわかりやすいという。

川に通りかかると、赤ん坊が溺れているのを発見し、助ける。安心していると、次々と溺れている赤ん坊を見つけて助けていく。目の前で溺れている赤ん坊を助けることに忙しくなり、川の上流で、男が赤ん坊を川に投げ込んでいたことには気がつかないという話だ。この「構造」に対してアプローチできるのが「政策起業」だという。

「目の前で溺れている子どもを助けることは伝統的なソーシャルセクターが得意とし、優れた結果を残してきた。一方で、問題を生み出している『構造』の解決にはサービスだけでは不十分。政治や政策に介入し、ルール、法律、仕組みを変える必要がある。日本はまだ黎明期だが、大空さんなど新しい世代でその萌芽がが見られ、22年は『元年』となるのではないか」(駒崎)

こうした政策起業は、グローバル・ディベロップメント・インキュベーターのアリス・グゲレフ、アンドリュー・スターンが提唱している、非営利団体のリーダーが問うべき、目指すべき「6つのエンドゲーム」の概念ともつながる。グゲレフらによると、組織の核となる事業モデルや介入策の有効性を証明したあと、最終的にどのようなかたちで社会課題全体の解決に貢献していくのか、について考える必要があるという。そして、資金提供者も、直接的・間接的なインパクトに加え、エンドゲームへの到達を支援すべきだと提唱している。
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文=山本智之

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