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2022.07.20

新たな価値は辺境から生まれる。出島組織は出島に学べ

イラストレーション=尾黒ケンジ

御存知の通り、出島とは1634年に江戸幕府の対外政策の一環として長崎につくられた人工島のこと。ポルトガルやオランダとの貿易の窓口として、日本の近代化に貢献した島だ。さて、今回はその出島と企業組織のお話。出島組織とは何か、そして私たちが出島から何を学べるのか。


およそ400年の時を経て、いま再び出島にスポットライトがあたっています。従来のやりかたや、正攻法では解決できない問題が増えるなかで、その閉塞感を打ち破るために「出島組織」や「出島戦略」と呼ばれるものが注目されているのです。

出島組織とは何かを大ざっぱに説明するなら、大企業や自治体などの組織のなかで、本体とは離れて新しいことを生み出すための組織やチームのこと。本体と離れているから意思決定のスピードが速いことや、スタートアップや外部の組織と連携しやすいといったメリットがあります。かくいう私たち電通Bチームも電通の出島組織と言われてきました。

読者の皆さんのなかには出島組織のことを知っている方や、出島組織に所属している方も多そうです。そんな皆さんは、長崎の出島のことをどのくらい知っていますか? ひょっとして、出島組織に所属していながら出島に来たことがない? そんなあなたには、いますぐ出島に足を運ぶことをおすすめします。

出島組織に所属していなくても何か新しいことを生み出そうとしているあなたも、出島に来て損はありません。そこに新しいことを生み出すための鍵がたくさん埋蔵されているからです。私たちが発掘した、ヒントの一部をご紹介しましょう。

世界中の出島がつながっていた


出島に来たら、当時の部屋の様子が再現された「カピタン(東インド会社が置いた商館の最高責任者の呼称)部屋」と「一番船船頭部屋」を訪れてみてください。畳が敷かれた部屋に唐紙を大胆に用いたポップな壁紙。東南アジアの布が敷かれ、ヨーロッパの家具や食器が並び、当時最先端だったオルゴールなども並べてある。さまざまな地域のカルチャーがカオティックに、高次元にミックスされています。世界を探してもこんな部屋はそうないでしょう。

なぜこんなミックスが可能になったのか?「出島同士がつながっていた」のが理由のひとつ。かつてオランダから長崎に貿易船がたどり着くまでに、いくつもの寄港地がありました。そこには日本における出島のような貿易拠点があり、それらがつながっていたから、最終寄港地の長崎にはいろんな地域の文化が集まったわけです。そのつながりがなければ、ここまで多様な文化は集まらなかったでしょう。

文化的背景の違いから生まれたミックス


カピタン部屋の壁紙に使われている唐紙は、もともと中国から渡ってきたものですが、柄が派手すぎるため日本ではびょうぶやふすまなど、部分的に使われることが多いもの。派手な壁紙を好むオランダ人が天井や壁に使ったことで、文化のミックスがおこり、特別な空間の雰囲気をつくりあげています。

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さまざまな国の文化の融合が見事なカピタン部屋。かつては役人や大名の接待にも使われた。
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文=鳥巣智行 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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