では閉鎖したお店でどう売っていたかというと、そこもクラシックに、顧客に電話をかけて、Whatsappで写真を撮り送り合い、車で玄関先に商品を届けていたというのです。たくさんの人たちよりも、顔がわかる少ない数の人たちを大切にする、という販売の仕方です。
先日、あるバイヤーと話をしていたら、「ECサイトは誰が買うかわからないし返品リスクもあるからやるつもりはないわ」と言い切っていました。人間味がある発注、人間味のある販売です。
Fifty-Eightsのオーナー兼バイヤーのユタ・ハイドさん(右)とお店のスタッフ。彼女自身38年バイヤーを続けていて、訪れる顧客と親しそうに話している
3つ目は、流行を追っていないことです。パリやミラノで華やかにショーを行なっているブランドも扱ってはいますが、お店に行くと、シーズンのトレンドを強調しているというよりも、オーナーのセンスや顧客のニーズに対応している印象を受けます。ブランドのラインアップもあまり変えることなく、バイヤーとの会話からは、一緒に育てていく心意気を感じます。
最近大きなロゴを打ち出すブランドが多いのは、グラフィカルでデジタルモニター上でも認識できるという要素があるからだと僕は思うのですが、そもそもデジタルを主軸に置いていないバイヤーは、それよりも素材感や着心地といった本来の洋服の価値や身につけた時の満足度を選択の上位に置いています。
その結果、シーズン性が強くないため時代遅れにうつる商品がほとんどなく、セールで安く売るということも少ないようです。
コロナ期間中のファッション業界の3シーズンを振り返ると、ロックダウン後最初のシーズンは「デジタルにしなければ」と業界全体が変化に追われていた時。2シーズン目は、システムが整い出して、お金や時間をかけて展示会に行かなくてもオーダーできることも当たり前になり、「結構デジタルって便利ね」と発見された時期です。
ただ、その後の3シーズン目は「でも、やっぱり何かが足りない」と、実際に指先で感じる素材の柔らかさ、肩で感じる服の軽さが求められ、そして何より、人と人のコミュニケーションの大切さがより浮き彫りになったと肌で感じます。
実際に3月のパリの展示会では、北米やアジアからはまだ少なかったですが、欧州からたくさんのバイヤーが来てくれ、2年ぶりに会う方々と笑顔で抱き合い、再会を喜びました。
ダブリンにあるHavana Boutiqueのオーナー兼バイヤーNikkiさん。創業は1994年でヨウジヤマモトなど日本のブランドを多数扱う
欧州のバイヤーとの対話から感じるのは、デジタルが主流となっていくなかで、人々が求めているものは、より人間味のある生産者、ブランド、バイヤー、そして顧客との関係性です。それらは、お互いへのリスペクトという一本の線で繋がっています。
インスタグラムなどのSNSやWhatsappなどのコミュニケーションツールも、そのヒューマニティーを支えるための「道具」。彼らはそこではフォロワー数が増えることやバズることよりも、親密な関係性を大切にしています。
きらびやかなで、時代の最先端をいくのもファッションの一つの形ですが、それだけではない価値がこの激動の時代の中で輝きを増し、新しい方向性を示しているように思います。変化をしながら回帰をする。そしてその回帰の場所で見えた視点は、以前のそれとはまた違った風景になり未来を描く新しい価値を生み出しているように思います。