ビジネス

2022.07.14 08:00

DXよりも人間味。コロナ禍を乗り越えた欧州のバイヤーたちの教え


ただ、前シーズンで受注した商品はすでに出来上がっていたので、バイヤーと相談し、納品させてもらいました。店舗を開けられないなかで商品を受け取るのが厳しいことは十分承知していましたが、驚いたことにどのお店もきちんと受け取ってくれました。これは僕らにとって本当にありがたいことでした。

その期間はリモートで働くセールススタッフが世界のバイヤーと連絡を取り合い、お互いや家族の健康や無事を確認しながら、各都市の状況を電話口やメールで聞いていました。セールススタッフのストレスも相当だったと感じますが、その時の細やかなやりとりが今につながっています。

とはいえ、受け取ってくれた商品が売れないことには、次回の受注にはつながりません。不安な中でものを作る日々が続きました。そして迎えた次のシーズン。やはり、総じてオーダーをしてくる店舗は減りました。

ところが、日に日に出てくるオーダーの数字を見ていると、前回よりも多く注文する店も出てきました。店舗の在庫が消化できないはずだから、今回はオーダーがないだろうと見込んでいた僕らにとっては予想外でしたが、受注期間が終わり集計したところ、結果として1店舗あたりの平均受注額が高くなり、以前とほとんど変わらない受注総額になっていました。

この特殊な環境下で、各店舗はどのように我々の服を売っていたのか。3月にパリのショールームに来てくれたバイヤーや、モニターの向こうにいるバイヤーたちに尋ねてみると、いくつかの共通点が浮かび上がってきました。


(左)イタリアのトリノにあるVerdelilaのオーナー兼バイヤー シルビアさん(右から2番目)(右)1980年創業のパリ「レクレルール」のオーナー兼バイヤーArmand Hadidaさん

1つ目は、そのお店の多くが地域に密着しているということ。バイヤーが「ヨウジヤマモトやコム・デ・ギャルソンを最初のシーズンからやってるのよ」という話によれば、それらのブランドが欧州に進出した1980年代初頭から、つまり40年以上お店をやっているということです。

その間ずっと地域のお客様と一緒に成長をしているから、エンドユーザーの嗜好、今まで購入したクローゼットの中身も手に取るようにわかっています。なかには、「この商品は〇〇さん用に」とサイズや色を選んで買い付けるほど、バイヤーにお客様の顔が常に見えているのです。観光客がいなくても成り立つお店とも言えます。

2つ目は、実はデジタルがあまり強くないということ。僕らと取引をしているお店のなかでECサイトを運営しているのは少数派です。お店の年月と共に高齢になってきているバイヤーも多く、アナログで、デジタルシフトにはどちらかというと出遅れていました。

そもそも欧州のファッション業界は、コロナ前までほぼ1世紀前と変わらないやり方で動いていていました。新作を見て素材を触り、着心地を確かめて紙にペンでオーダーを取るという、非常にクラシックな世界。それが突然変わってしまい、バイヤーたちも対応を求められましたが、最終的に100%デジタルシフトをしようという選択に至らなかったと感じます。
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文・写真=村瀬弘行

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