その梅毒の感染拡大について、おそらく最も懸念されるのは、母親の妊娠中に胎児が感染する先天梅毒(胎盤感染)の患者の増加だろう。絶対数は少ないものの、CDCによると、2019年からおよそ15%増加しており、2016年比では235%増となっている。
先天梅毒は、100%予防が可能だ。母親が妊娠中に治療を受ければ、胎児には感染させずに済む。だが、治療しなかった場合には、胎児の子宮内死亡の危険があるほか、出生後に重度の神経学的症状が出る可能性もある。一部の州が、最初の妊婦健診時と妊娠第3期中に検査を受けるよう求めているのは、このためだ。
だが、残念ながら実際に検査を受ける女性は多くない。例えばインディアナ州では、妊娠中に一度も梅毒の検査を受けない女性は、19%にのぼる。分娩時の検査でも、受ける人はわずか9%だ。
政治情勢も一因?
公衆衛生は長年にわたって軽視され、資金不足の状態が続いてきた。その上、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めて以降は「反ワクチン派」から攻撃を受けるようになり、経験豊富な職員の流出に、さらに拍車がかかっている。
政治的には、いわゆる「ゲイと言ってはいけない法案」が可決されたり、禁欲主義の性教育や、限定的な性教育を重視したりする動きが各州でみられている。こうした状況では、STDはさらに拡大していく可能性が高い。また、新たな感染症が出現したとき、そのまん延を抑えることが困難になることも予想される。