「コロナ禍で畑を始めた」などという話もよく聞く。それは、“生産”から遠く離れてしまった人間の、本能的な危機感からくる行動なのだろうか。
こうした流れを受けて、2021年1月にβ 版として始まった「農家・猟師・漁師のお手伝いマッチングサービス」がある。これは、人々がまさに求めていたものだと感じた。
当たり前の裏側を見る体験
2020年、神奈川県小田原市を拠点に立ち上がったNPO法人MOTTAI(もったい)。
「当たり前の裏側にアクセスしやすい社会を創る」をビジョンに、手伝いをしてほしい農家・猟師・漁師と手伝いたい人を繋げ、食べ物が生産される現場、つまり“裏側”に触れる体験を提供している。
これまでには、食べる、を考えるきっかけとしての鶏解体研修や、狩猟体験「罠オーナー制度」、廃棄になりそうな食材を持ち寄る料理会「モッタイNight」など、ユニークな食体験を提供してきた。
そしてコロナ禍をきっかけに、一箇所に大勢が集まるのではなく、1対1の繋がりを増やすための仕組みづくりをしたいと考え、「農家・猟師・漁師のお手伝いマッチングサービス」が生まれたという。
ウェブサイト上で興味のある体験を選び、応募フォームから登録するだけで利用できるサービスだ。現在10人のホストが、お手伝いを募集している。
みかん農家やいちご農家での農作物の収穫から狩猟の罠設置まで、手伝いの種類はさまざまだ。
MOTTAI代表理事の菅田悠介氏は、このマッチングサービスを立ち上げた背景について次のように話す。
「これまでの体験事業と同様に、“食料廃棄の問題を解決したい”という強いモチベーションがありました。問題解決のためには、当たり前だと思っていることの裏側を見る経験が必要です。つまりそれは、食べ物がどういうふうに作られているのかなど、一次産業の現場を知ることです。その体験を通して人と人との繋がりができれば、当事者意識を持つ人を増やせるのではないでしょうか」
このサービスが新しいのは、手伝いをしてくれた人への報酬が「食べ物」であること。金銭が発生しないことによって、手伝いを受ける側(ホスト)にとっても、手伝いをする側(ワーカー)にとってもハードルが低くなっている。
「既存のマッチングサービスでは、参画できる一次産業従事者が限られていると感じていました。費用や人員の問題で、都心部の個人経営者は参画できない。でも、都心部で彼らを手伝いたいという人はたくさんいる。需要と供給が合っていない状況です。それなら、報酬を食べ物にしてしまえば、少しでも参画のハードルが下がるのではないかと思いました」