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2022.06.28 18:00

アルツハイマー病に関する新たな研究結果 脳内の酸化的DNA損傷も関係

安井克至

Getty Images

全身の細胞は、加齢にともない自然にDNAの変異を蓄積していく。アルツハイマー病では、脳細胞で通常よりもはるかに速いスピードで変異が起こる。ブリガム・ウィメンズ病院とボストン・チルドレンズ病院の研究者による最近の研究のおかげで、なぜこのようなことが起こるのかの理解に一歩近づいたかもしれない。

300以上の脳細胞の全ゲノム配列解析の結果、アルツハイマー病が主に影響を及ぼす海馬と前頭前野の2つの領域で、酸化的なDNA損傷が顕著であることが判明したのである。ゲノムの広範な変異は、アルツハイマー病におけるタウタンパク質とアミロイドβタンパク質の蓄積に対応して生じる活性酸化種への曝露の増加に関連しているようである。ミラー博士らのこの研究は、アルツハイマー病の根本的なメカニズムに光を当てるだけでなく、加齢がもたらす自然な結果にも光を当てている。

酸化的DNA損傷は、外部と内部の両方からさまざまなかたちで生じる。通常の細胞の代謝過程でも、他の活性酸素種の前駆体として知られるスーパーオキシド副生成物が生成されることがある。低レベルでは、活性酸素は細胞のシグナル伝達や恒常性の維持に関与していることが知られている。しかし、これらの分子が細胞内に蓄積されると、DNAを不安定にするのはもちろん、細胞機能を破壊する可能性がある。細胞は活性酸素の影響を最小限に抑える方法を発達させてきたが、これらのメカニズムは完全ではない。また、酸化的な損傷を受けたDNA領域を修復することは、ゲノムをさらに不安定にし、より多くの突然変異を生み出す危険性をはらんでいる。DNAのある領域が酸化的な損傷を受けると、細胞はその損傷を修復するか、修復せずに放置するかという慎重な判断を迫られる。
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翻訳=上西 雄太

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