EVバッテリーに必要な鉱物
ここ数年でバッテリー価格は減少した。しかし、EV向けバッテリーの価格は15%上昇する可能性があるとIEAは指摘する。原材料の王様はリチウムで、その価格は2021年初頭以来7倍上昇した。不幸なことに、ロシアはリチウムの世界市場の約20%を供給している。
中国も潜在的問題の一つであり、リチウムイオン・バッテリー全体の75%を供給している。それだけではない。バッテリー金属(リチウム、コバルト、グラファイト)精製の50%以上、およびEVバッテリーの中心部であるアノードとカソードの生産の70%以上が中国で行われている。
こうした要素は、電気自動車の急増を鈍化させるかもしれない。しかし、リチウムに関しては、可能性が開かれている。ほぼすべての鉱物資源を有するオーストラリアは、世界最大のリチウム生産国であり、2020年の世界生産量の半分近くを占めている。米国で稼働中のリチウム鉱山は、ネバダの1カ所だけだ。しかし、新たなリチウム鉱山がメイン、ノースカロライナ、カリフォルニアおよびネバダの各州で開発されている。
そしてクラリオン・クリッパートン海域(CCZ)と呼ばれる太平洋の断裂帯が、世界に刺激をもたらしている。じゃがいも大のバッテリー金属の塊がその海底で見つかっている。CCZは、ハワイとメキシコの間の水深4000メートルから6000メートルに広がる巨大な深海平原だ。その塊はコバルト、ニッケル、銅、およびマンガンを含む多金属団塊だ。最も簡単な採掘方法は、これらの団塊を吸引するだけだ。しかし、環境保護団体は、海底の生物多様性に与える影響に関する詳細な研究なしに実施することに反対している。調査には数年かかると言われている。
さらなる成長が破壊を引き起こす
バイデン政権は、2030年までに全米を横断する50万カ所のEV充電ステーションネットワークを設置すると発表した。政府は各州がそれぞれの充電ステーションを建設するための援助として、5年間にわたり50億ドル(約6740億円)を提供する計画だ。
米国でEV移行に関する気候目標が達成されるためには、次の3つが起きる必要がある。第1に、EVの価格が一般車と競争可能になること。第2に、全米にわたって数多くの充電ステーションが設置されること。そして、それぞれ通常のガソリンスタンドよりずっと大きくなければならない。なぜなら、EVバッテリーの充電には1時間かそれ以上かかるからだ。
第3に、EV乗用車は世界新車市場の10%に達しているが、EVトラックははるかに遅れており、わずか0.3%だ。気候目標に到達するためには、2030年までに10%に増える必要がある、とIEAレポートはいう。現在路上でEVトラックが存在感を示しているのは中国だけだ。米国でEVトラックのスタートアップが立ち上げられているのは良いニュースだ。
ガソリン価格が高騰しており、ある専門家が1ガロン当たり6ドル(約214円/リットル)になると予測する中、世間のムードは乗用車とトラックのEV化へと向かっている。ただしそこには障壁が2つある。1つは、石油とガソリンの信頼性に対する長年にわたる信仰。もう1つは、政策変更に対する米国議会の抵抗だ。
ガソリンとディーゼル燃料の元になる原油を生産する石油・ガス会社は、電気自動車販売台数の増加に目を光らせる必要がある。継続する急成長は破壊的なものになる見込みが高いからだ。