3つ目の分野として挙げられたのが「新しいプラットフォーム」だ。これは、メタバースにほかならない。メタバースについては、本カンファレンス以外の複数のセッションでも触れられており、小売業界での注目度の高さがうかがえる。
これまでは、企業は「メタバースに関する取り組みを始めました」という打ち上げ花火的プレスリリースを発行すれば十分だったのだが、確実に時代は変わっている。今後、企業には、考え抜かれた本質的なメタバース戦略が求められるのだ。
「メタバース上で購入し、実店舗で受け取る」という未来図も予想されるなか、企業はメタバース戦略を最前線で指揮するポジションを設置して、組織のサイロ化を防ぎながら、一丸となって取り組んでいかねばならない。キーノートではこうした指摘もなされた。

新しいプラットフォームとしてのメタバースに注目が集まる(カンファレンスのスライドより)
そして4つ目の注目される分野が「消費者」だ。つまり消費者の変化に対応する必要があるということになる。
近年、人々の注意力が低下しているとの指摘がなされているが、「そうではない」と分析する。メディアの数、そして情報量が爆発的に増加した結果、消費者は常に気が散っている状態に陥っているだけなのだ。

インスピレーションとイーズという2つの入り口を設けた米ディスカウント大手ターゲット(カンファレンスのスライドより)
こうした環境下では、小売業者サイドとしては、「消費者の時間を尊重している」ということを示すのが重要となる。その事例として、米国のディスカウント販売の大手「ターゲット」の取り組みが紹介された。
2017年にターゲットは店舗のデザインを変更。2つの異なる入口を設けた。ひとつは、買い物体験を楽しみたい人向けの「インスピレーション=Inspiration、もうひとつは急を要する商品や頻繁に購入する商品を買ってすぐに店から出られるような「イーズ=Ease」(「簡易」という意味)だ。
この入口に付けられた「インスピレーション」と「イーズ」は、もちろん顧客の消費行動を表すものであり、実店舗だけでなくオンラインショップでも日常的に見られるものだ。ターゲットのように、賢明な業者はすでに両方の消費行動に対応している。

「インスピレーション」と「イーズ」に対応したECの事例(カンファレンスのスライドより)