カナダ・モントリオール生まれのリューは現在、サント・ジュスティーヌ大学病院センター小児救急科で医師として働き、マギル大学でパンデミック(疾病の世界的大流行)や医療上の緊急事態を専門とする教授を務めている。
2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、2009年の豚インフルエンザ、そしてエボラ出血熱やジカ熱など、感染症の流行が繰り返されてきた近年の傾向をリューは懸念。エピデミック(局地的流行)がパンデミックに拡大する頻度が今後増える可能性が高いと警鐘を鳴らしている。
米科学アカデミー紀要(PNAS)に昨年8月発表された論文では、環境の変化に伴い、動物を保有宿主とする病原体への感染が今後増加し、新型コロナウイルスと同様の世界的流行を引き起こす可能性が高まると指摘。「極端なエピデミック」が1年間に起きる確率は今後数十年で3倍に増える恐れがあるとされた。
リューは「私たちは環境に非常に大きな負荷をかけていて、動物から人間に伝染するウイルスを作り出している」と語った。必要なのは行動を重視するリーダーシップや、自然や他者の健康・安全に目を向けたガバナンス(統治)であり、「火星にロボットを送ることができるなら、これもできるはず」だという。
「現実を見直す必要がある。私たちは互いと密接に関連し、相互に依存しており、地球の反対側で起きることが最終的には自分にも影響するという事実を受け入れなければならない」
ウクライナ前線での支援
リューは最近、MSFが派遣したチームの一員として、ウクライナで3週間以上過ごした。チームは現地で、医療従事者が多数の戦傷者に対処できるよう、医療物資の提供、トリアージ(傷病者の優先順位付け)の訓練、病院の地下への救急設備の設置準備といった活動を行った。
しかし、ニーズは病院の中にとどまらなかった。避難民キャンプにいる人や、避難勧告があったがとどまることを決めた人に対し、移動診療所を通して医療を提供することが緊急に必要とされていた。
さらに、治療が必要な患者が増え続ける中、前線近くの病院の病床不足も課題となった。MSFは4月1日、列車を使いウクライナ東部から西部に多くの患者を安全に搬送する取り組みを開始した。
「危機が起きた時に貢献することが、私の責任だ」とリューは語る。「ウクライナで起きていたこと、経験豊富な人が同国で必要とされていたことを知り、行かなければと感じた。私はこれまで非常に厳しい場所で働いてきたので、そうしたストレスに耐えられ、与えられるものがある」
「リーダーシップで大事なのは、謙虚さと、耳を傾ける能力、そして自分に起きていることを把握する能力、自分の不安や周囲の人の強さを管理する能力だ」