星も、家族へのカミングアウトはハードルが高かったと振り返る。それでも最初に打ち明けた姉が一番の理解者となり、外部で否定されても帰れる場所があることが大きな心の支えとなった。「LGBTの就職」をテーマとした起業には、同様の勇気ある決断が必要だったはずだ。
しかし、星氏は、このテーマは自分が解決に動かなければなかなか解決せず、5〜10年のスパンであればLGBTQに対する社会の考えも変わるだろうが、「社会を変える波を早めたいと思ったし、1日でも早く変える意味がある」と話す。
JobRainbowが創業6年目を迎え、企業側のダイバーシティ&インクルージョン（D&I）に対する意識の変化も感じているという。かつては「LGBT」という概念自体もなかなか伝わらなかったが、現在は多くの人がある程度の認識をもち、企業にも「多様性が会社の力になる」という意識が生まれているという。現在は古いジェンダー観に起因する炎上事例が多発していることもあり、LGBTQへの理解はかつての先進的なイメージから、会社として取り組むべき問題として認識され始めている。
モデレーターの瀧口は、人権の話であり「やらないといけない」という以前の問題でもある、と言及。星は、本質が人権の問題であることを認めつつ、「なかなか人は変わるのが難しいので、環境や仕組みを変えていくことが大事」と続ける。人が変わりづらいことを前提にサービスやシステムをつくっていくことが重要で、ESG投資などもこうした考えに基づいていると。
星はこの考えの個人的原点として、ノーベル平和賞を受賞したマイクロファイナンス機関「グラミン銀行」の創設者ムハマド・ユヌスに影響を受けたと話した。
瀧口は本セッションテーマの設定理由として、誰もが活躍できる土壌が期待される世界、自分らしく生きていくというのが新しい時代のスタンダードになると掲げる。海音は金子みすゞの「みんなちがって みんないい」という詩を取り上げ、人と違う自分にしかない部分はコンプレックスや「隠したい」と思いがちだが、周りから羨ましがられる部分にもなり得るので、そこを好きになれれば自信にもつなげられると話す。
星も"自分らしさ"とは他者との相関性のなかにあるアメーバのような不定形なものだとし、自分らしさを発揮するためには他者の正しい理解が必要と続ける。そして、他者を正しく理解するために、当事者の声に耳を傾けることが大事なのだと説く。
“自分らしさ”を発揮して仕事や人生と接するには、周りが理解し、当事者がクローゼットから出てこられるような環境づくりが不可欠となる。海音は、義足について「最初は周りで義足を見たことがなかったから、『隠さないといけない』という選択肢しか思いつかなかった。隠すかどうかは個人の選択肢だけど、する（隠す）／しない（公にする）の選択肢をもてる社会であってほしい」と語る。
最後に、星は現代アーティストであるフェリックス・ゴンザレス＝トレスの『Untitled（Portrait of Ross in L.A.）』を挙げ、アートとは"世の中の見方を変えるもの"で、人も見方を変えればさまざまに見える、と言う。周りはLGBTQやハンディキャップにばかり注目するが、人間は色々な側面をもっている。人に対しても、その人の多様な側面を見るように考えや見方を広げてくれたら嬉しい、とセッションを締めくくった。
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