ウクライナはなぜロシア戦死兵の顔をAI識別し、遺族に知らせるのか?

戦友の遺影を掲げるウクライナ兵士たち、5月6日(Photo by Omar Marques/Anadolu Agency via Getty Images)


顔認識AIの戦時利用は取り返しのつかない悲劇を招く?


ウクライナ側が死亡したロシア兵の身元を特定すべきだと考えるのは、ロシアの公表した戦死者数に異論が噴出しているためである。3月中旬、侵攻開始以来1万人近いロシア兵が死亡したとロシアのタブロイド紙が報じた。それまで発表されていたよりはるかに多い死者数だが、その後記事は削除され、同紙はハッキングによる偽情報だったと主張した。ウクライナ側は、プーチン政権が戦死者数をごまかしてロシア国民に伝えていると考えている。

しかし、人権団体「監視技術監視プロジェクト(STOP)」創設者アルバート・フォックス・カーンは、たとえウクライナがロシアの人々に真実を伝えるためだとしても、顔認識システムの戦時利用は取り返しのつかない悲劇を招く可能性があると言う。「人権も何もない暴挙になりかねない。平時に顔認識で身元特定を誤れば、誤認逮捕が起こる。戦時に顔認識で身元特定を誤れば、無実の人々が銃撃される」と彼はForbesに語った。


ウクライナ東部の都市、チェルカスケで。5月3日(Photo by Narciso Contreras/Anadolu Agency via Getty Images)

「顔認識システムのエラーのために、どれだけの難民が検問所で止められ、誤って射殺されるかと思うとぞっとする。私たちがウクライナのためにすべきことは、彼らが必要とする防空手段や軍装備品を提供することであって、この悲惨な戦争を商品の販促活動の場に変えることではない」

実際、顔認識技術は人々の顔画像を誤った身元に結びつけることがあり、必ずしも当てにならないのがわかっている。米国ではこれまでに黒人の誤認逮捕が少なくとも3件発生している。いずれも監視カメラの映像とデータベースの顔画像が誤って一致したことが原因だ。

「顔認識技術が死者の身元特定を誤ることは避けられない。そうなった場合、遺された人々は心を打ち砕かれる」とカーンは言う。

ウクライナの大義は「真実を広げるため」


顔認識技術へのそうした懸念に対して、クリアビューAIのホアン・トン・タットCEOは次のように答えている。「戦場で敵の戦闘員と民間人の区別がつかないと、非常に危険なことになる。顔認識技術はそうした状況下での不確実性を減らし、安全性を高めるのに役立つ」


ウクライナの都市、ハリコフで、5月6日(Photo by Diego Herrera Carcedo/Anadolu Agency via Getty Images)

ホアン・トン・タットによると、米政府が支援する研究において、クリアビューは「1200万枚以上の顔画像の中から、正しい顔を99.85%の精度で特定できる」ことがわかった。この高い正確性が「戦闘地域での誤認を防ぐ」という。

「ウクライナ当局はクリアビューAIの利用に非常に積極的だ。われわれも彼らのさらなるフィードバックを楽しみにしている。当社の顔認識システムを安全に責任を持って使用できるよう、アクセス権のある者全員に訓練を受けてもらっている」

倫理的な問題はさておき、顔認識技術の利用はこの「情報戦」における非常に強力なツールだ。ウクライナはこれを「真実を広げるための戦争」だとしている。フェドロフ副首相も、ロシア軍の侵攻が始まるまで顔認識技術の利用は想定していなかったという。彼はテレグラムの投稿にこう書いている。「われわれは進化している。1カ月前には誰にも想像もできなかったことを始めているのだ」

翻訳・編集=大谷瑠璃子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

ForbesBrandVoice

人気記事