当時、アップルはエバンジェリストをハリウッドに送り、同社の製品を映画やテレビシリーズに登場させる交渉をしていた。また、アップルは1984年にMacをリリースした頃から、映画業界のトップエグゼクティブやプロデューサー、クリエイターに直接働きかけてきた。
アップルは、スタジオのラボにMacを提供し、彼らがよりインタラクティブなコンテンツを制作することを支援してきた。多くのスタジオがMacを使ってマーケティングキャンペーン用の印刷物を作るようになったことを受け、同社はDTPに重点を置いてハリウッドにMacを売り込んだ。アップルは、アメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)の研究所にもMacを提供し、映画を歴史資料として保存することを支援した。
筆者が1990年代半ばにAFIで講演した際、当時のアップルのCEOだったギル・アメリオが聴衆に筆者を紹介してくれた。筆者は、コンテンツのデジタルフォーマット化や、それが映画産業に与える影響について私見を述べた。当時、アップルはハリウッドに対してMacを特殊効果に使うよう働きかけており、多くの映画スタジオがMacを導入し始めていた。
しかし、スティーブ・ジョブズは、それよりも前からハリウッドに関心を示していた。彼は、ソニーの共同創業者である盛田昭夫を尊敬していた。アップルがまだ創業間もない頃、ジョブズはソニーのCEOだった盛田と知り合い、親交を深めた。ジョブズは、ソニーや盛田に憧れ、ソニーのウォークマンにちなんでMacを「MacMan」と名付けようと考えていた。
盛田は、CEO在任中にハードウェアビジネスを強化しつつも、1989年には現在のソニー・ピクチャーズを買収した。ソニーが映画製作に乗り出したことに対し、多くの人はソニーの中核事業や強みから大きく逸脱していると考えて困惑した。
この買収から数年後、筆者は盛田にインタビューする機会に恵まれ、映画スタジオを買った理由を尋ねた。すると、盛田は次のように答えた。「映画はソフトウェアだ。ハードウェアは、それを動かすソフトウェアがなければ意味がなく、映画はソニーのハードウェアで動くソフトウェア・コンテンツだ」
盛田の考えは、時代を数十年先取りした鋭いものだった。その後、映画業界はデジタル化とその配信に大きくシフトし、ストリーミングメディアの拡大をもたらした。