キャリア・教育

2022.04.28 18:00

宇沢国際学館代表・占部まりに聞く「いま読みたい宇沢弘文名著」7選

宇沢国際学館代表取締役・占部まり氏


『日本の教育を考える』(岩波新書、1998年 ※絶版)
「私たちはいま改めて、教育とは何かという問題を問い直し、リベラリズムの理念に適った教育制度はいかにあるべきかを真剣に考えて、それを具現化する途を模索する必要に迫られています」。
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1998年に書かれた本です。教育の向かうべき道はまだ迷走しているようです。教育のあるべき方向性を自身の経験に基づき経済学者の立場から論じています。冒頭にもありますように、教育が専門ではないのですが、専門でないが故に論考が広がっているとも感じられます。

『生命・人間・経済学』(日本経済新聞出版社、2017年 ※絶版)
1977年に『科学者の疑義』として刊行されたものを再刊行したものです。分子生物学者の渡邊格さんとの対談です。盲ろう者で初めて東京大学の教授となった福島智さんの前書きで『ガチ討論』『知的異種格闘技本』『予言書』と評してくださいましたが、対話は生命とは、科学とはのみならず、知的宇宙人との意思疎通にまで及びます。45年前の対談とは思えないほど、また、45年前だからこそ踏み込めた話題も俎上に乗っています。残念ながらこちらは絶版です。

『算数から数学へ』(岩波書店、1998年)
数学は「数・空間・時間という支援の要素の間の神秘的な関係を理解し、絶妙な法則を明らかにする手段」。算数の面白さを紹介しながら、数学への誘いとなっています。いろいろなエピソードを紹介しているので、それだけ読んでも楽しい本です。
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残念ながら絶版ですが、『好きになる数学入門1〜6』につづきます。こちらも併せて読み通すと、太陽と惑星の運動に関するケプラーの法則からニュートンの万有引力の法則を自分の力で導き出すことができるという壮大な本です。

『経済学は人びとを幸福にできるか』(東洋経済新報社、2013年)
池上彰さんの前書きが秀逸です。父との直接の交流はありませんでしたが、父の伝えたかったことを巧みに汲み取り文章にしてくださいました。

経済は人間の心があって動く。その当たり前のことを基軸にして経済学を突き詰めていた宇沢。経済に追い立てられているように感じる昨今ですが、経済学の本質的な目標は人びとを幸福にすること。その幸福は、いまを生きる人だけでなく、我々の子孫をも含んでいます。遠い未来にも思いを馳せながらこの本をひもといてみませんか。



宇沢弘文◎
1928年生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学院に進み、特別研究生。28歳のときにケネス・アローに招かれて渡米。スタンフォード大学で同大学経済学部助教授、後にシカゴ大学教授。当時経済学界を先導していたポール・サミュエルソンやロバート・ソローなどから高く評価され、60年代には世界的に有名な若手学者に。しかし、68年に突然帰国。1969年東京大学経済学部教授に。1997年文化勲章受章。成田空港問題、都市問題、地球温暖化問題にも取り組む。

占部まり◎
内科医、宇沢国際学館取締役。1965年、シカゴにて宇沢弘文の長女として生まれる。東京慈恵医科大卒。現在は地域医療に従事するかたわら、宇沢の「社会的共通資本」をより多くの人に知ってもらうための活動を行う。京都大学人と社会の未来研究院にて、社会的共通資本の未来寄付研究部門が2022年5月1日に設立される予定。環境問題や教育・医療など社会的共通資本を軸に横断的な研究が期待されている。

宇沢弘文が考える教育について取り上げたForbes JAPAN 6月号(4月25日発売号)は、これからの人と組織の「ありかた」を問い直す大特集。詳しくはこちらへ。

編集=岩坪文子

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