ノーベル経済学賞にもっとも近いと言われた日本人、宇沢弘文は1968年、アメリカでの経済学者としてのキャリアの絶頂期に日本に帰国し、数字の上での経済成長が必ずしも豊かさにつながるわけではないと感じ、生命など大切なものをお金に変えない経済学として『社会的共通資本』の理論構築を目指した(詳しくは、「経済学者・宇沢弘文が考えた教育「内的な能力」とは何か」)。
長女で宇沢国際学館代表取締役・占部まり氏に、この連休にじっくり読みたい宇沢弘文の名著を紹介してもらう。なかには絶版の本もあるが、その希少性に鑑み、また古本では市場に出ているため、掲載した。
『人間の経済』(新潮新書、2017年)
『富を求めるのは道を聞くため』。こちらは、一般向けの講演やインタビューをまとめたものなので、わかりやすいです。最初に手に取る本としておすすめです。
新潮社の編集の方と父が企画を進めていたものでした。2011年3月脳塞栓で倒れたため、ゲラの状態で止まっていました。ご縁がつながり、出版となりました。暴走する市場原理主義、それに対して経済学は何ができるのか。人間の営みに不可欠なもの、自然環境から医療・教育それぞれを深掘りしながら豊かな社会のありかたに迫ります。
『自動車の社会的費用』(岩波新書、1974年)
1974年の出版ですが、大切なものをお金に変えないという、根源的なものにアプローチしているため、月日を経ても色あせることがありません。数字的の上では驚異的な成長を遂げていた戦後日本。日本に帰国し、かつてのゆたかさを失っていることに衝撃を受けて書いたものです。
豊かさとGDPなどの数字は相関しないが、経済学にできることがあるはずだ。若い宇沢の筆が走っています。自動車にフォーカスしていますが、深く多角的な分析のため汎用性が高く、現代に置き換えて考える上での鍵がたくさんあります。
『経済学と人間の旅』(日本経済新聞出版、2014年)
日経新聞の『私の履歴書』をまとめた前半と、日経新聞の、あまりやさしくないとも評される『やさしい経済学』という連載を中心に据えた後半のコントラストが興味深いです。近代経済学の展開と宇沢の人生の関係性に興味を持たれた方はジャーナリストの佐々木実さんが書かれた『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』(講談社、2019年)をぜひ。
日本に帰国後大きな転機となった1971年元旦の日本経済新聞に掲載された『混迷する近代経済学の課題』も収録されています。後半部分は専門的なものとなりますが、最後の大学改革論も興味深いので、途中で挫折しそうになった際には最後のほう、特に最終章へ飛んでみてください。