だが、彼にとって最大の戦利品は、17年についに買収したNBAのヒューストン・ロケッツだ。買収金額は当時のNBAチームとしては最高の22億ドルで、ランドリーズ社を担保にした借り入れで資金を調達した。
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ランドリーズ社をレバレッジにとことん利用したところで、新型コロナのパンデミックが襲来した。彼は「4週間は生きた心地がしなかった」と振り返る。
「世界を救うことなどできない。だから、厳しい決断をしなければならなかった」
例えば、4万人の従業員の一時解雇だ。
「私の場合、かかっているのは全部自分の金なんだ。よそのCEOの決断が早くないのは、自分の金じゃないからさ」
事業のほぼすべてが休業するなか、設立8年になるGNOGが救いとなったことにファティータは驚いた。21年上半期に17億ドルの収益を上げた米国のオンラインギャンブリング産業は、20年に記録した過去最高の収益を打ち破り、彼が保有するGNOG株の価値を6億ドルに押し上げた。
さらに、パンデミック前に株式公開のための仮目論見書の作成を進めていたランドリーズ社に対して、20年に設立されたSPACのファスト・アクイジションから買収の申し出があった。このSPACを設立したのは、マーケティング業界の大物のダグ・ジェイコブと、カジュアルレストランのチェーン、ルビー・チューズデイの創業者であるサンディ・ビールだ。
21年2月、3人は66億ドルの買収取引を発表。ファティータが所有するレストランの大部分と5つのカジノ、そしてGNOGとドラフトキングスの持ち株をファスト・アクイジションと合併させ、ファティータ・エンターテインメントという新しい株式公開企業を設立すると発表した。6月になると、ファティータはこの取引をさらに拡大。キーマのマリーナボードウォークや遊園地を備えた桟橋、ガルベストン・プレジャー・ピア、その他のレストランなどの自身の資産を足した。
これにより、総取引額は86億ドルまで膨れ上がった。追加の資産を積み上げることにより、新会社に移行させる数十億ドルもの負債が貸借対照表に与える影響が緩和されることになり、レバレッジをEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の5.2倍から、それでもまだかなり高い4.3倍へと引き下げられる利点もあった。
ファティータは新会社の74%の株式とCEO職を手に入れる予定だ(編集部注:21年12月10日、ファストは相互の意見の相違のため合併契約を終了したと発表。ファティータは最大3300万ドルをファストに支払うことになるという)。
ファティータの人生はいまのところ上々だ。ボードウォーク号に年間30泊するつもりだと語る彼は、派手な生き方をするには厄介な時代だとこぼす。
「世界は変わったよ。ビリオネアは嫌われる」
それでもファティータは、次に買うヨットを思い描き始めている。ドイツのヨットメーカー、ルーセン社製の全長110mの船がいいかもしれない。
ティルマン・ファティータ◎1957年、米国テキサス州生まれ。ヒューストン大学中退。社長兼CEOを務めるファティータ・エンターテインメントの傘下には、カジノとホテルのゴールデン・ナゲット社、ババ・ガンプ・シュリンプやレインフォレスト・カフェなど擁するレストラン大手ランドリーズ社、NBAのヒューストン・ロケッツなど。