ビジネス

2022.04.17 17:00

TVタレントでNBAチームのオーナー。八面六臂の錬金術師の奥義とは

ティルマン・ファティータ(Getty Images)

不況もコロナ禍もものともせずに成長を続けてきたファティータのビジネス。あらゆる手段を講じてきた彼がSPACに辿り着いたのは必然かもしれない。


64歳のティルマン・ファティータの人物像を表す言葉はいくつも考えられる。ショーマン、リスクをいとわない、NBAチーム「ヒューストン・ロケッツ」のオーナー、リアリティショー「ビリオン・ダラー・バイヤー」のスター、そしてドナルド・トランプの破産したニュージャージー州アトランティックシティのカジノを買い取り、成功させた男……。

しかし、最もぴったりくるのは「頭の切れる金融取引の仕掛け人」だろう。自ら事業のために一般投資家を取り込んだり追い出したり、絶妙なタイミングで負債を抱え込んだり処分したりしてきた経歴をもつからだ。「我々は、厳しい時節には必ず、より大きく、より強くなるんだ」(ファティータ)

01年の不況時には、苦境にあった飲食店チェーンを割引価格で次々と買収。10年にはリーマンショックを受けて自らが率いる飲食とエンターテインメントのランドリーズ社を非公開化させ、未保有の同社株の45%を14億ドル(約1600億円)で買い取った。

そして今回。積み上がった46億ドルの負債によって破産する可能性もあったところを、金融業界のはやりものを活用して資産を増やした。SPACを使ったのだ。試算によると、SPACを巧みに利用した資金調達と本格的な自己取引によって、純資産額を前年の41億ドルから63億ドルまで増やしている。

SPACとは株式公開しているペーパーカンパニーのことで、資金を調達し、不特定の非公開企業との将来的な合併を進めるもの。対象となるのは、さまざまな面で連邦政府の監視が伴う従来のIPOを実行したり待ったりする余力がないかもしれない企業だ。SPAC取引はこの2年、活況を呈しているが、それには連邦準備銀行(FRB)が供給した大規模な低金利融資が影響している。

調査会社のSPACアナリティクスによると、19年のSPAC取引は59件で140億ドルの資金が調達されたが、20年にはそれが急増して248件の取引で830億ドルが、さらに21年には最初の9カ月間で443件の取引で1270億ドルが調達されている。

特筆すべき例は、オンラインカジノのゴールデン・ナゲット・オンライン・ゲーミング(GNOG)をめぐる取引で、ファティータが売却側と買収側の両方の立場にあったことだ。

コロナ禍以前の19年、彼は付き合いの長い投資銀行ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループと、ランドケイディア・ホールディングスIIというSPACを設立するために2億5000万ドルを調達。このとき、ファティータはランドケイディアIIの10%の発起人株式に加え、共同会長と最高経営責任者(CEO)のポストを獲得した。
次ページ > レストランからカジノ、NBAチームまで

編集=森裕子 翻訳=木村理恵 文=クリス・ヘルマン

この記事は 「Forbes JAPAN No.091 2022年月3号(2022/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事