ちなみに、ニューヨーカーがよく着用しているマスクの種類はどのようなものかというと、不織布でヒダのある「サージカルマスク」や、「N95」「KN95」といったさらに防御率が高いとされているタイプである。サージカルマスクは一般的な水色のほか、黒、グレー、ブラウン、「N95」「KN95」は白や黒といったダークカラーをよく目にする。
こちらではウレタンマスクを目にすることはないし、一時期たくさんの種類が出ていたおしゃれな布マスクもすっかり姿を潜めてしまった。マスクの着用義務が解除になったくらいなので、布マスクでも良いのでは?と思いきや、である。
最近はサージカルマスクをはじめとした防御率の高いマスクの入手が容易になってきたからこそ、手洗いの手間が不要で衛生的なものを選ぶ、非常にアメリカらしい「合理的」選択がされているのだろう。
ニューヨーカーがマスクをする理由
ところで、NYと同時期にマスク着用義務が解除となった他州の知り合いに話を聞いたところ、「皆マスクをしていない」とのこと。この違いは何なのだろうか。
マンハッタンを含むNY市は、アメリカの中でもかなり特殊な生活環境があり、「典型的アメリカ」ではない。特に、筆者が知るのはNY州の中でもNY市だけなので、その他の州との明確な違いとして見えるのだと思われる。
マスクの着用義務解除後もNY市内でマスク人口が多いのには、いくつか理由がある。まずひとつは、パンデミックが始まった直後に、NYは世界で最も死者の多い「パンデミックの震源地」とまで言われたことだ。
連日朝から晩まで救急車のサイレンの音を聞かないことはなかった時期があり、長閑だったセントラルパークに野戦病院のようなものまで立てられた。自分自身や身近な人がコロナに罹患して大変な思いをした経験がある人も多いため、「自分の身を守る注意深い行動」として、マスクを着用する習慣が身についているのだろう。
義務でなくなったとはいえ、着用するのもその人の自由である。日本人がコロナ前から風邪予防や花粉対策の目的で自主的にマスクをしていたのと同じ感覚になってきている、とも言えるのではないだろうか。
2つ目の理由として、公共交通機関とそのホームでは、未だマスク着用が義務化されていることが挙げられる。これが、他州との日常的マスク着用率の大きな違いにもなっているだろう。
アメリカの多くの場所では、移動手段といえば自家用車だが、NY市では地下鉄とバスが主流だ。日常生活の動線上にマスク着用が必須の場所が多くあると、よほど熱くて息苦しい気温でもない限り、移動中は屋外でもマスクを付けっぱなしで、外して良い場所でもわざわざマスクを外すことはないのかもしれない。
ただ単に面倒だからつけっぱなしにしている、というこれもまたアメリカ的な発想とも言えるが、やはり、「つけることが当たり前ではなかった」人々の意識の変化には驚く。